2.プレーヤーキラー
夜。ユウトはいつものように、ランニングしてくるといって家を出で、そのままミラージュワールドにログインした。
メニューから、転移を選び、行き先を『C地区スクエア』を選択した。
スクエアは、通常の『地区』とは別の空間で、すべてのセーブポイントから転移できる。
スクエアには各種ショップは勿論、ゲームなどが楽しめる娯楽施設や、情報交換が出来る酒場などがある。
各地区のスクエア間は転移で簡単に行き来でき、自分が来たセーブポイント以外のセーブポイントに転移することもできる。つまり、スクエアを経由すれば、どんなに遠い地区でも一瞬で移動できる。
また、ディルを現実の世界のお金に変える換金所もスクエアにある。
換金所で手続きをすると、24時間以内に現実の銀行に匿名でお金が振り込まれる。ちなみに、換金所が開くのは1ヵ月に1回だけだ。まぁ換金所の中にはいくらでもスペースがあるので、現実の銀行とは違い、待ち時間はほとんどない。
ユウトは、ハルカと1週間に2回パーティを組んで攻略をしている。
いつもの待ち合わせ場所、アイテムショップが見えてくる。
そこには既にハルカの姿があった。
「こんばんわ、先輩」
「……」
なぜか厳しい顔でこちらを見つめてくるハルカ。
「……先輩?」
「マドレーヌ、おいしかったんだよねぇ?」
「……え?」
「聞いたわよ。マドレーヌ『あーん』って、食べさせてもらってたって」
……待て。おい。おかしいだろ。何で先輩がそれを知ってるんだ。しかも微妙に事実とは変わってるし。
「してませんって! 確かにマドレーヌはご馳走になりましたけど……それに何で先輩が知ってるんですか!?」
「別にー。風の便りで聞いただけよ。それにしても、大胆よねー」
今日の先輩おかしい……。
「まぁ良いわ。早く行きましょう」
トコトコと歩いていくハルカ。
ユウトはそれを慌てて追いかけた。
…
「それにしても物騒ですよね。PK」
「そうね。でもあたしは何の心配も要らないねー。当然ユウト君が守ってくれるだろうし」
真顔でそんなことを言われる。
「まぁ、そりゃできれば守りますけど」
「皆ログインを控えてるみたいね。いつも賑わってる酒場にもほとんど人が居なかった」
「早いとこ何とかしないと、最近モンスターも増えてきてるし」
「あ、ちょっとアイテムショップ寄っていい? 強化結晶がもう残り少ないんだ」
「うん。じゃぁあたしちょっと掲示板見てくるわ」
アイテムショップに入って、目的の強化結晶以外にも、回復結晶も数個買っておく。
店を出て、掲示板のほうに向かって歩いていく。
と、掲示板の前に二つの人影が見える。
それは立ち話……をしているようには見えなかった。
「先輩!」
二人の人影は互いに武器を交えていた。
「武装、クレイモア!」
ユウトは馴染みの武器を出現させ、二人に駆け寄った。
敵は、両手剣使いだった。フードですっぽりと顔を隠し、体の大きさもコートによって曖昧になっている。
ハルカは槍杖で敵の黒鎌を弾いていた。戦闘能力特化型の魔術師故、白兵戦もこなせるのは彼女の強みだろう。その分純粋な魔術では他の魔術師プレーヤーには劣るが。
敵はユウトに気がつき、一歩大きく引いた。
「……」
敵は、しばし無言の後、建物の屋根にジャンプし駆け出す。
「待て!」
二人はその後を追った。
…
ミラージュワールドでは、普通のRPG同様に、ステータスというものが数値化されている。レベルアップすると各項目の数値が上がっていく。
そして、ミラージュワールドには『逃走』というステータス項目は存在しない。だが、敵の逃走能力はユウトたちのそれを大きく超えていた。
巧みに建物から建物に乗り移り、僅か5分あまりで見失ってしまったのだ。
「噂にたがわなぬ……といったところですか」
おそらく今のが『閃光ジャック』だろう。
「ジャックって言うのはちょい間違いね。だって使ってるのでっかい鎌だったじゃない。ありゃ処刑人、って感じよ」
「そうですね……。見たところ、スピード、ジャンプ力、そして鎌を振りますパワー。すべてにおいて長けていた。あれはレベル30どころかレベル40、という可能性もありますね」
「さっさと解決しないとね」
…