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 放送室の二人(2)

「優斗くん。放送室一緒に行こう?」

 教室に戻ってた優斗に一人の女生徒が話しかけてきた。

「あ、うん。三矢さん」

 三矢 巴。ポニーテールと黒のハイソックスが特徴的で、常に周りに笑顔を振りまく明るい少女だ。その性格から、男女を問わず友達も多い。

 優斗も、女子特有の裏表が無く、接していて安心させられる彼女が好きだった。無論、それは『love』の好きではなく、『like』の好きだが。

 2人は同じ3年A組で、放送委員だった。今日から1週間、2人は昼休みの放送を担当することになっている。といっても、適当に音楽とお知らせを流すだけどの仕事だが。

「CD持ってこれるだけ持ってきたんだぁ」

 廊下を歩きながら、彼女がバックを右手で叩いた。

「助かるよ。俺が選曲したらゲームの主題歌ばっかになっちゃうからさ」

 優斗は笑いながらそう言った。

「優斗くんRPGが好きなんだよね? 実は私も最近RPGハマッてるんだ」

「え、三矢さんが?」

「うん。多人数参加型のなんだけど」

「へぇ、何てタイトル?」

「それは秘密」 

 と、巴は放送室の扉を開けた。

「秘密って。隠さなくても良いじゃん」

「へへ。まぁちょっと訳ありでねー。あたし結構強いからさ。引かれそうだしね」

 訳あり……か。その点、『ミラージュワールド』のプレーヤーは訳ありだよな。多分彼女の訳ありの比じゃない。

 巴はマイクの電源を入れた。

「これから、昼の放送を始めます。今日は音楽鑑賞です」

 今日『は』音楽鑑賞と言っているが、少なくともここ3年間はずっと音楽鑑賞だ。

 巴がボタンを切り替え、CDの曲を流し始めた。

 この後は特にすることがない。放送委員の仕事は1年に数回、1週間の放送を行うだけで、それも最初と最初の挨拶をするだけで後は音楽を流すだけの楽な仕事だ。そのため一番人気が高く、例年どのクラスもくじ引きで選ばれる。だから男と女がなるということも珍しくは無かった。

「あ、優斗君、今日さ。マドレーヌ焼いてきたんだけど、食べない?」

「え?」

 と、巴はバックからウサギがプリントされた箱を取り出した。その中には小さめのマドレーヌが6つ入っていた。

「貰って良いの?」

「うん。どうぞ」

 マドレーヌを一つ受け取り、優斗はそれをパクリと口に入れた。

「これすごいおいしいよ。あれ、調理実習で作ったのより数倍おいしい」

「へへ。ちょっと自信あったんだー」

 優斗は、可愛い子は料理が出来ないという等式を脳内から抹消した。

「本当はもっと凝ったもの作りたかったんだけど、時間が無かったからさ」

「ううん。十分だよ。これ」

 優斗は早くも二つ目に手を出した。

「全部食べていいよ。でも、先にお弁当食べなよ。お腹いっぱいになっちゃう前に」

「ああ、大丈夫。オニギリだから。最近お弁当作るのが面倒くさくて」

「優斗君自分でお弁当作ってるんだっけ」

「まぁね。おばさん忙しいから。去年までは弟の分が必要だったけど、小学校は給食だからさ。自分の分だけ作るのめんどくさいんだよね」

「そっかー。でも優斗君料理出来るんだよね。食べてみたいなぁー。優斗君の手料理」

「はは。そんなに上手くないからさ。止めといたほうがいいよ」


   …


 クラスに戻ると、何故か、いきなり数人の男子に囲まれた。

「優斗──まさかそんなに仲良かったなんて──」

「は?」

「いやぁ。お前、気がついてないかもしれないけど、お前等の会話、全校中が聞いてたぜ」

「……は?」

「だから、お前が三矢さんの手作りマドレーヌを貰うあたりの会話。全校生徒が聞いてたぜ」

「……冗談だろ?」

 一気に血の気が引くのを感じる。

「本当だよ。皆聞いてる。調理実習より数倍おいしいんだもんな」

「……」

 引きこもりたい。

 ボタンを押し間違えていたのだろうか。

 恥ずかしすぎる。ていうか絶対明日上履きに画鋲が入ってるよな……。

「お前、本番のときはちゃんと電源切れよ? 先生に捕まっちまうからな」

「待て! 違うだろうが! 俺はただマドレーヌを食べただけで……」

   

 …


 優斗は、午後の授業で先生に散々からからかわれ、激しくブルーになっていた。「ああ──スイッチ押し間違えてたみたいだね。ごめん」

 巴は手を顔の前で合わせて謝っていた。

「いや、俺は別に良いんだけどさ。三矢さんのほうが問題じゃない? なんか変な噂流れそうだし」

「はは。別にいいよ。それくらい。でも次からは気をつけないとね」

「そうだね」

「でさ。優斗くんアップルパイ食べれる?」

「え、あ、勿論食べれるけど」

「じゃぁ明日はアップパイ焼いてくるね」

「え? 悪いよそんな。今日もマドレーヌ貰ったし」

「趣味だから。誰かに食べてほしいし。できれば食べて」

「……じゃぁ、ご馳走になろうかな」

「うん。じゃぁ、またね!」

「またね、三矢さん」

 


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