1.放送室の二人(1)
終末連続更新、一週間に1章以上更新。
「卒業祝いにパフェが食べたい」
突然晴佳から掛かってきた電話で、彼女はそんなことを言った。
「じゃ、駅前で待ってるから。11時までに来ること」
「……」
ちなみに彼女が中学を卒業したのは1ヶ月も前のことである。既に高校生としての生活を始めているのに、なにをいまさら祝いだという話である。
現在の時刻は10時45分。
急いで出ればギリギリ間に合うか──。
「しゃーない」
…
「後輩にパフェ奢らせる先輩ってどうなんですかね」
そんな皮肉を口にしてみる。
「いいじゃない。パフェの一つや二つ。あんたそれでも男?」
「……またそれですか」
優斗は小さいため息を付いた後、イチゴを口に放り込んだ。
「で、先輩学校はどうです?」
「ん? まぁ、特には。──そういえば、またやられたって」
先輩は突然話題を切り替えた。
「──また?」
「ええ。もう8人目よ」
…
『ミラージュワールド』が始まってから1年半が経過した。
優斗が晴佳と出会った1ヵ月後。ゲーム始めての『死亡者』が出た。あるギルドのメンバーだった男は、ダンジョン攻略でHPが0になり、死亡した。だが、実際の世界では彼は生きていた。ただし、ミラージュワールドに関する記憶を全て失った状態で。
てっきりミラージュワールドで死ぬと、現実の世界でも死ぬと誰もが思っていたため、男が生きていると分かったときはかなり驚いた。
だが、冷静に『説明書』を読み返して見れば、『死ぬこともある』としか書かれておらず、どこにも『現実世界でも死ぬ』とは書かれていなかった。
ただ、ミラージュワールドに関わる記憶の全てが消され、再びミラージュワールドにログインすることも出来なくなる──これがミラージュワールドにおける死だ。
また、男の仲間の証言により、HPゲージが0になっても死ぬわけではないことが分かった。
ミラージュワールドでは、HPゲージがあるうちは、斬られようと、焼かれようと、HPが削れるだけで肉体は傷つかない。また痛みも半分以下になる。だが、HPゲージがなくなった後はそうは行かない。斬られれば体は真っ二つ、焼かれれば火傷を負う。
男もHPゲージが0になった後、敵に噛み付かれて出血多量で死んだそうだ。
つまり、現実では生きていても、一回『死』というものを体験することになるのだ。
また、ミラージュワールドで死んでも現実では生きている、ということが分かると、いわゆるPK──プレーヤーキラー行為を行い、アイテムとディル(通貨)を奪うものたちも現れ始めた。
そして、今ミラージュワールド内最大の脅威が『閃光ジャック』だ。既に8人のプレーヤーが殺されている。
彼に襲われて唯一生き延びたものが現れ、その存在があらわになった。
生き残ったプレーヤーの話に由れば、突然現れ、一太刀目でHPゲージをゼロにされ、二太刀目で首が飛ぶらしい。
一太刀でHPゲージをゼロに出来るとなればかなりの使い手だろう。8人目の犠牲者のレベルは10だったらしいが、HPゲージを一撃でなくすとなると、レベル30でも難しい。
優斗は、それだけの実力を持つプレーヤーは一人しか浮かばなかった。現在、全プレーヤー中、唯一レベル40達している、間違いなく最強の双剣使い。
もっとも、彼が閃光ジャックという可能性はゼロだが。