5.少女の復唱
剣はその手から零れ落ち、ただ下を向いて泣く少女。
それを見たユウトは、危険だという考えが浮かばず、トモエに近寄った。
「ミツヤさん──」
「私、ユウト君のことが好きなのに──。やっぱりユウト君は──
──先輩が好きなんだね」
涙し嗚咽しならが、紡ぎだされた言葉にユウトも胸が詰まるのを感じた。
「ミラージュワールドの記憶を失ったくらいじゃ……私には振り向いてくれない」
彼女の言うとおりだった。
俺は。
結城ユウトは。
中北ハルカのことが好きなんだ。
「私、馬鹿だったね。さっきの一撃で目が覚めた……」
トモエがゆっくりと立ち上がる。
そして、そのままユウトに抱きついた。背中に回された腕はユウトを強く締め付けた。
どうしてよいか分からず、ただその場に立ち尽くすユウト。
それから10秒ほどして、彼女を慰めようと、手を髪の毛に回して、その頭を優しく撫でた。
「ミツヤさん……」
ここで好きだと言ってあげられたら、どれだけか救われるか。好きだといえば、今この瞬間は、楽になる。
でも、それはできない。
だから、彼女をこの瞬間だけは抱きしめてあげる事にした。
…
それからどれだけの時間がたっただろうか。
ようやく落ち着いてきたころ、トモエは突然ユウト腕を解いた。そして、おもむろにメニューを開き、ボタンを押していく。エクストラメニューの一番下。普段は絶対に押さないボタンに手が伸びる。
「──ミツヤさん!?」
その手を止めようとするが、その前にそのボタンは押された。
徐々に減っていくHPゲージ。
彼女が押したのはDCコマンドだった。
「いろいろとごめんなさい。ユウト君に迷惑かけた」
「ミツヤさん……」
「ええっとね。ここの記憶がなくなったら、多分また……」
彼女のHPゲージはゼロの値を示した。
そして、彼女の体は光に変換され、ミツヤトモエというアバダーはミラージュワールドから姿を消した。
…
次の日。
学校には全てを忘れた三矢さんが居た。
「優斗君、おはよう」
「うん……おはよう」
一緒に放送当番をこなした。
今日は当番期間の最終日。
無邪気に笑うその顔を見ていると、胸が詰まるのを感じた。一体彼女はどれだけのもの背負っているのか。それを考えるとますます苦しい。
今日の放送の終了を告げる。
「ねぇ……ユウト君」
「……何? ミツヤさん」
「私は────
彼女からゆっくりと、あのときの言葉が繰り返された。
優斗くんのことが──ずっと好きでした」
いや──。
なんとかミラージュワールド2の連載を終了することが出来ました。
あとがきは明日投稿したいと思います。