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航空ファンという人種

 同日、同時刻。処は太平洋上空。


 成層圏を眼下に空と宇宙の境目は飛行するのは、ロンドラ国際空港発、第2宇宙港行きのインペリアル・エアウェイズ24便である。

 ブリティッシュ・ホワイトに塗装された機体の高度は120キロメートルを超えている。ここまで来ると、空気はほとんど無いに等しい。


 ここはまさに宇宙と大気圏の境い目なのだ。


「皆様、ただいまベルト着用のサインが消えましたが、無重力空間での事故に備えて、シートベルトご着用のままでいる事をお勧めします……」

 機内アナウンスが終わると、乗客たちは左舷側の窓に張り付いた。


「いよいよだな」

「ああ、待ち遠しいな」


 服装も年齢も、種族すらまちまちな乗客には、ひとつの共通点がある。

 それは天翔ける被造物をこよなく愛しているということ。

 彼らは、航空ファンと呼ばれている。


「今度のはずいぶんと平たい機体だそうだ、垂直尾翼もないらしいぞ」

「無尾翼機か。ずいぶん冒険的な設計だね」

「それでは飛行姿勢が安定せんのではないかな」


 事前に発表された資料を片手に、わいわいがやがやである。


 かれらの目的は新型の宇宙往還機。ランダー・ゼロだ。

 今までの宇宙往還機は、地上からロケットブースターで打ち上げるか、大型の母機で成層圏まで運んでやらなければならなかった。

 しかし、最新型のそれは自力で宇宙に到達出来るのだという。


 それを可能にしたのは、新型の原子力電池の採用をはじめとして、徹底的な軽量化と蓄熱合金の実用化によるところが大きい。

 蓄熱合金は、ソルナイトという周囲にある熱エネルギーを自身にため込むという奇妙な性質を持った物質を使った特殊合金だ。蓄えた熱量は、比較的簡単に取り出す事ができ、熱変換素子を通じて電力に変換する事ができるのだ。


「おい、見えてきたぞ」

「本当に飛んでいるじゃないか」


 旅客機の後ろから、三角形の機体が近づいてきた。

 新幹線の先頭車両に大きな三角翼をつけたような機体は、その全てが翼として機能するよう設計された全翼機だ。

 翼の両端がゆるく跳ね上がっているのは、垂直尾翼を兼ねての事だろう。


 ランダー・ゼロは、しばらく旅客機の隣を飛んでいたが、そのうちに旅客機を追い抜くと、高度を下げ始めた。


 機体が大気の海に触れると、すぐに機体の周囲の大気がイオン化し、光の尾を引き始める。乗客たちはその様子を固唾をのんで眺めていたが、光の尾を引きながら、一直線に降下するランダーの姿に誰からともなく拍手が始まった。


「操縦が難しい全翼機をよくもまあ…」

「……無事に着陸できるといいなあ」


 大気圏突入の一部始終を見ていた乗客たちは、パイロットの腕の良さに賞賛を惜しまなかった。

 それほどまでに見事な操縦だったのである。


 ランダーは大気圏に侵入すると、対地角度50度という、ほとんど垂直とも言える角度で降下を始めると、雲の中に突っ込んだのだ。


 もしも、彼らの乗っている機体がランダーのような飛び方をすれば、一瞬で空中分解することは間違いないだろう。

 それだけに、ランダーの凄まじさがわかろうというものだ。


「アテンション。機長から乗客の皆様にご案内いたします。先ほどすれ違いましたランダー・ゼロは、予定通りフジ宇宙港に向け、順調に飛行中です。なお当機は約3分後に加速を再開します。お席を離れているお客様は、急ぎシートに戻り、ベルトを着用してください……」


 客室のいたるところに取り付けられているディスプレイの表示が一斉に、加速再開までのカウントダウンを始めた。

 ざわざわと興奮冷めやらぬ乗客たちは、自分のシートに戻り始める。


 その間も、カウントダウンは刻々と進み……


 やがて旅客機は、ぐいと鼻先を上に向けて、宇宙港への旅を再開した。

ランダーは普通の飛行機のように、滑走路から飛び立つことが出来て、月まで行ける飛行機です。

大きな機体には何を積みましょうか?

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