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明日への道標

 シュタール司令官をはじめとする10名ほどの隊員たちが、宇宙服姿で月の大地に立っていた。今生の別れとなるかも知らない隊員達の見送りのためだ。

 ヘルメットに内蔵されているヘッドセットからはエスターが宇宙船の出航の指示を出しているのが聞こえる。


『2番ピット、ガーラダ。進路クリア、発進してください…』


 小さなクレーターにカムフラージュされた立坑から、直径200メートルの球体がゆっくり浮かび上がると、虚空に向けて飛び去っていく。


『続いて3番ピット、ダーブラス。4番ピット、ガーイア、発進…』


 別の立坑からは、100メートルほどの球体がスタートした。


 出発する宇宙船には、それぞれ識別コードのほかに船名がつけられている。


 これらは太古に建設された月面基地の全てを管理していたはずのエスターにさえ『知らされていなかった』宇宙船ドックで建造されたもの。


「みんなぁ、航海の無事を祈るぞぉ」

「元気でなぁ」


 計画では、ドックの宇宙船をすべてスタートさせる事になっている。その数は大小あわせて100隻にものぼる。そのすべてが重力推進タイプのエンジンを積んでいるばかりか、食料生産プラントや工場を備えているのだ。


 小柄なドワーフの傍らで、宇宙船を見送っていたエルフの一人が話しかけた。


「シュタールよ、おぬしも行きたかったのではないか?」

「莫迦な事を言うでないわ。ドワーフの住処はいつだって地下深くと決まっておるではないか。神代の昔から、な」

「穴居民族という奴だな」

「おぬしらエルフこそ森の木々の梢から天空を覗き込んでいたじゃろう」

「はて、そうだったかな?」


 宇宙船には人類の遺伝子情報も積み込んである。

 乗組員が寿命を迎えても、かれらには後継者がいるという事だ。

 宇宙船団が全滅でもしない限り、人類と言う種が滅びる事はないだろう。


『シュタール、これが最後のグループです』

 彼らの目の前で、最後の一群が離床すると、宇宙の闇の中に消えていった。


「……行ってしまったな」

「ああ」

 宇宙服姿の隊員達は無言のまま、虚空を見つめていた。


『みなさん、急いでください! タイムリミットまで1時間を切りました』

「……そうか、もうそんな時間なのか」

「司令官、今まで世話になりましたね」

「ギルメネル… 息災でな」


 武骨な宇宙服に身を包だエルフ達は最後まで優雅な振る舞いを見せてくれた。

 彼等はシュタール達に別れを告げると、踵を返し、岩山に向けて歩き始めた。

 その先には、反重力エレベーターの入り口がある。


「司令官……」

「コッドか… 色々と世話になったの」

「いえ、我々の方こそ。……いろいろ有難うございました」

「……うむ」


 ドワーフ式の敬礼か。ヒト族のくせに洒落たことを。

 やがて彼らの姿も岩山の中に消えていった。


『シュタール、さあ、あなたも早く!』

「うむ… それでは、わしもひと眠りするとしようかの」


 シュタールは、岩山のふもとに広がる大地に目を向けた。

 そこは、かつて300人もの人類が暮らしていた月面基地がある。

 ドワーフと、エルフと、ヒトが、互いに手を取り合いながら、苦楽を共にしてきた場所だ。

 今となっては、かつて月面基地があった場所というべきだろうか。

 施設のほぼ全てが瓦礫と化しているのだから。


「月面基地よ、ムーンベース・アルファよ。……しばしの別れじゃ」


 彼は月面基地に別れを告げると、地下への入口へ歩き始めた。

……かくして、百の勇者の物語は幕を開けん。

後の世の吟遊詩人たちは、リュートを片手に謡うのでしょうね。

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