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この世をあらわす方程式

 昼休みが終わる少し前に学校を抜け出した私は、病院の中にいる。

 ここは歩いて10分もあれば着くからね。だって学校から見える距離だもん。

 入院しているのは私の伯父。お父さんのお兄さんになる。


 看護婦詰所で、さっそく受付を済ませる。


「こんにちわ、古城こしろです」

「はぁい、お見舞いご苦労様。じゃあ、ここに名前を書いたら行っても良いわよ」

 面会票に名前を書いて看護婦さんに渡すと、面会プレートをポケットから取り出して胸につけた。

「あ、そうそう。今日は帰りにそれ返しておいてね。明日は点検日なのよ」

「わかりました」


 こういう事が許されるくらいの人間関係は出来上がっている。


「……まだ生きていた。不思議」

「そう簡単にくたばるかよ、来月公開の新作、予告編くらいは見たいからな」


 点滴の管をあちこちに取り付けてベッドに横たわった伯父さんは、弱々しいながらも、いつもの口調で話しかけてくれた。

 伯父さんの病気は脳卒中。

 心臓で出来た血の塊が脳の血管に詰まって、時としてヤバい事になる。

 伯母さまに言わせると、本気でヤバい所まで行ったらしい。


「そういや…… 今日は平日じゃねぇか。学校はどうした?」

「午後の授業は自習だから自主休講してきた」

「いかん! いかんなぁ、そいつはいかんぞぉ。学生なら出席点を稼いでおくべきじゃないかぁ。皆勤賞は社会に出た時に『役に立つ』ものなんだぞぉ」

「そうなの?」

「もちろんだとも」


 休暇を取り放題とかな、と言ってニヤニヤな笑みを浮かべている。

 普通のヒト族でも命に係わるような経験をした後で、こんな表情を浮かべる事が出来るものだろうか。心が折れかかった人はこんな顔をしないものだ。

 じっと、伯父さんの顔をながめていたら、彼は、ふむ、と頷くと、いたずらっ子のような表情をした。


「…にしても、随分と疲れた顔をしてるな、おい」

「4限目は白文だったから」

「……お前は根っからの理数系だからなぁ、ああいうのは辛いか」

「そんなことない… けど」


 言葉というのは、人の想いが籠っている。しかし白文というのは、普段使っている文字なのに文法だけが外国語というのが馴染まないだけの事で。

 あれだけは駄目、苦手。


「白文は送り仮名がないし、文法も西洋風だ。馴染みにくいよなぁ」


 伯父さんは、何か納得したように頷いていたが、サイドテーブルの引き出しからノートを取り出した。

 さらさらと何かを書きつけると、破いたページを渡してくれた。


「じゃあ、可愛い姪っ子のために気分転換になりそうなネタをくれてやる」


 かなり複雑な方程式だ。

 変数の記号からすると、物理学の内容かしら。

 うわぁ。これは…… なんかワクワクしてきた。


「ちょいと複雑だが、解けねぇモンじゃない。100年以上も前に発表された古典だからな。すでにいくつかの解が発表されてるぞ」

 私の視線は方程式にくぎ付けになっていた。


「……美しい」

「そうかい。じゃあ、優しい伯父様がいくつかヒントをやろう」


 たしかに微分方程式だけど、時間と空間を表現するための方程式… かぁ。

 このくらいなら理解できるレベルかも。数学は、すごく楽しい。

 苦手な人はとことん苦手で、計算が面倒とか、色々言うけど。


 研究者たちは、その成果を伝えるため、数式と言う名の『言葉』を生み出した。

 たとえば… 左から右上がりの直線になるグラフがあるとして。


 数式なら、たったの1行でグラフの内容を説明できる。

 でも、それを普通の言葉で説明すると……


 ここをこうした時にすると結果はこうなる。ここをこうした時にすると結果はこうなる。ここをこうした時にすると結果はこうなる。ここをこうした時にすると結果はこうなる。ここをこうした時にすると結果はこうなる。ここをこうした時にすると結果はこうなる。ここをこうした時にすると結果はこうなる。ここを…………


 ねえねえ、どっちが楽だと思う?

この物語世界では、人類=人間とは限りません。

もっとたくさんの種族が、なかよく同居していたりします。


どこかで、説明回を作った方が良いかしら?

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