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王国への帰還

 神々の奮闘により、宇宙の危機が去りつつあったころ。

 月面基地も混乱の渦中にあった。


 地球への帰還を希望する隊員はマーリン副司令を中心に、大半のヒト族は帰郷の準備に大わらわだ。地球からはじき出された宇宙雲が月の軌道に到達するまで、残り10日もないのだから。

 それに比べると、基地への残留を決めた隊員たちはのんびりとしていた。


「この部屋にいる面子は『帰郷』しない事に決めたんだよな?」

「もちろんだとも」

「それにしても、凄かったなぁ。昨日のあれが、副司令の言ってた『別の宇宙から来た何か』なんなのかね」


 話の口火を切ったのはグランドル大尉。宇宙物理学者だったな。隣にいるルイスが彼の話を引き継いだ。実体化した物体の画像は基地にも送られている。

 なんというか、一言でいえば上下さかさまになった『大樹』だな。

 高さも、幹の太さもコンセプションの数倍はありそうだ。


「あれが実体化したときの時空震な、だいたいマグニチュード6だった。成層圏に浮いていた「あれ」を全部放り出すには充分な揺れだったろう」

「じゃ、じゃあ… 軌道上の造船所は……」


 たぶん駄目じゃろう。

 時空震の衝撃波が直撃したのと同時に、成層圏に浮いていた「あれ」の直撃を受けたのだ。造船所の職員たちが無事かどうかはわからない。


「でもな、連中、うまくやったかも知れないぜ」

「……ドラム缶の中か」

「そう言えばそうだな。あそこなら……」


 それを皮切りに、その場にいた男女は大きく頷いた。


「それよりも、シュタール司令、我々も巣ごもりの準備を始めた方が?」

「とりあえず、地上のセクションは閉鎖した方が良さそうね」

「まあ、そんなに慌てなくともいいじゃないですか」


 アルマンド… 地上に年老いた両親がいるんじゃなかったのか。いつも気にかけていたじゃろうに。還ると言っても非難する者はおらんぞ。


「地球に帰る予定者もいたはずじゃ」


 来月の定期便で帰郷する者もいたはず。

 そうじゃ、お前たちじゃ。


「マルシア…… おぬしも帰郷する筈では?」

「アミュレット持ちが仲間を見捨てるなんて、出来ないでしょ?」

「セルゲイはどうするんだい? 婚約者だろ」

「あんな男…… アグネスにくれてやるわよ!」


 気の毒にな。

 こればかりは当事者の問題じゃ。わしの出る幕ではないわ。


「それにな、司令。位階は別として、ここにいる全員が加護持ちなんだ」

「なんじゃと?」

「持ってるのはラザルス中佐のような、とんでもないシロモノじゃないがね」


 メダリオンというより、アミュレットだから、と笑っておるではないか。

 たしかに精霊の加護では幸運のお守り程度のものではあるが……


「とにかく、あの連中には早いところ退散してもらおうぜ」

「う、うむ」

「エスター、状況はどうなっておる?」

『パイロット・セクションのドッキングは終わりました。核融合炉の再起動は無理でしたけど』


 燃料の問題でも、機械的なものでもないなら、故障の原因は何じゃろう。

 点火シークエンスの寸前までは問題なく動いておる。

 充分に温まった炉心で、燃料が燃えないだけなのじゃ。

 職人的な欲求が頭をもたげるが、とりあえず後回しであるな。


 核融合炉が生み出す膨大な電力を使用するのは月軌道から離脱する時のみ。

 あとの航程で使う電力は船内の各種機器に使用するだけじゃ。

 地球までの数日間の飛行なら、原子力バッテリーだけでも充分であろう。


「あのフネは理想的ですね。引っ越しの荷物もすべて運び込みました。すぐにでも出発出来ちゃいますねぇ」


 ラザルス、その笑顔はやめい。伝説の悪魔が顕現したようで怖いんじゃ。


「くふふふ。エスター、基地に残っている連中に囁きかけてくれないか?」

『どんなメッセージを?』

「帰りたい奴は急いだほうがいい。 ……早い者勝ちだぞ、ってね」


 そう言うと、ラザルスは大きな声を出して笑いだした。

この大樹、それっぽく見えるだけで、実際には違います。

そして、後の時代にはナウパウムの塔と呼ばれる事になります。


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