エルフ族の少女
私は古城 嶺衣奈。この春に中学に進学したばかり。
今年… 2020年度の入学生の中で、エルフ族は数える程しかいない。というよりも、エルフ族の入学生自体が5年ぶりの出来事らしい。
それでも春の大型連休も終わる頃には、自然と仲良しクラブやヒエラルキーなんてものがまとまってくるもので。
要は、落ち着くところに落ち着いた、ってことかな。
「すーぽーこっ」
「……琴ちゃんは元気だねえ」
「テンション低いよ。今日は曇っているから体温上がりきってない?」
「あたしゃカエルか何かかいっ!」
話しかけてきたのは、吉沢 琴音。漆黒のストレートロングに白い肌。いつ見てもお人形さんのようなヒト族だ。
平野部で生活するエルフ族は多くはないので、小さい頃は奇異な目で見られる事もあったけれど、彼女は違った。
最初に会った時から、ずっとこんな感じ。
「いつも思うんだけど、なんでスポ子?」
「外国の俳優にね、あんたにそっくりの人がいてさー」
聞けば、イビム帝国で人気の宇宙冒険活劇のキャラだそう。
主人公のパーティでの役どころは賢者で、名前はスポコ。
ヒト族だけど、耳がとがった容貌は独特で、ファンクラブまであるらしい。
見た目と雰囲気が彼とそっくり?
……かれぇ? ってことは、スポコってヒトは♂だと?
「琴ちゃん? わたしゃ、女なんだけど」
「私も多分そうだと思ってるけど?」
「……ちょっとマテ。なぜに疑問形?」
「ふふん」
琴音は私を見つめ、両腕で巨乳を抱え込みながら持ち上げた。
「あんたがオンナというには説得力というm」どごっ! びすっ!
あだだだだ… 頭のてっぺんから鈍い音がした。こぶができたらどーすんのよぅ。
うわたぁ、岩波先生だ。
「オロカモノ。授業時間はとっくに始まってるぞ」
「ごめんなさい」×2
私達の脳天にゲンコツをかましたのは、私たちのクラスの担任。教科は古典。
パーフェクトウーマンの彼女のもうひとつの顔は、その筋のお姉さま方に大人気の小説『夜離れ物語』の作者さんだったりする。
内容はまあ、妄想系が多いかしらねぇ…
「…だから、返り点をひとつで解釈が代わってしまうのだな。この場合は……」
それにしても白文かぁ。ガリア語の単語を漢字にしたようなモノだけどねぇ。
なまじヒノモト語と似ているからアレだけど、やっぱり外国語なのよね。
どうせならシャーミゥ語のようにくるくるが一杯ついた文字とかならねぇ。
……そんな事をつらつらと考えているうちに。
からーん、ころーん
「では、今日の講義はここまで。ここは夏休み明けの試験に出すからね」
「きりーつ」
「礼!」
……授業時間が終わっていた。
ばんざーい、待ちに待ったお昼ごはん。寝坊して、朝ご飯食べてなかったのよ。
最新刊という最高のごちそうを最悪のタイミングでよこすなんて。
岩波先生ェ、謀ったな。
「今日もお見舞いにいくの? あんたの大切なオ・ジ・サ・マ」
「午後の授業は自習になるのは間違いない。どうせ光村先生は見回りに来ない」
彼は思いついたら、実験して確かめなければ気が済まないのだ。
だから、もっともらしい方程式を前にして、耳元に囁いておいた。
仕掛けは充分、というわけ。
「それもそうね。なんかあったら、あることないこと吹聴しておくわ」
「明日から宿題のサポートは無いものと思いなさい」
「きっちり誤魔化しておくから安心して!」
「期待してるわよ」
よしよし。
持つべきものは友達ね。
今日も18時にもう1回投稿します。