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イングヴォロンの災難

 私の名はイングヴォロン。エルフ族だ。

 永らく指揮を執ってきた月面基地とも別れを告げる時が来たようだ。

 後任はシュタールという。おそらく来月にはやってくるだろう。

 彼はドワーフ王の末の息子ながら、変わり者という事でも名が知れている。


 地球人類にとって、この基地はとても重要なポジションだ。

 人類が、地球以外の天体に初めて作った建造物であると同時に、地下には異星人の遺した遺跡基地があり、その管理頭脳は正常に機能しているからだ。


『……イングェ、聞いていますか?』

「ああ、聞いてる」


 この口やかましいのはエスター。遺跡基地の管理頭脳だが、その能力は知性体といっても差し支えあるまい。はっきり言って、彼女がいれば基地の仕事はすんなり回っていくのではないかと思うほどだ。


『それでよろしいですね?』

「ふむ?」

『こればかりは、私の一存では決められませんので』


 珍しい事もあるものだ。彼女が決定をためらうとは。

 しかし参ったな。正直言って、彼女の話をまともに聞いていなかったんだ。

 かといって、聞いていなかったと言えば、とつとつと意見されるのは目に見えている。今回のようなパターンでは1時間はかたいな。


「改めて聞くが、人命に関わる事はないんだね?」

『えっ? そう…… ですね。あまり聞きませんね。あとはサポート環境次第というところですが、この基地でなら問題はないと思いますよ』


 よしっ、とりあえず話は繋がったぞ。このまま押し通すぞ。


「それならば、それではOKとしよう」

『最終確認になりますが… 本当によろしいのですか?』

「かまわないよ」

『わかりました。では、その内容で処理します』


 よしっ。何とかかわしたぞ。とりあえず、真面目に仕事をするか。

 なになに、南極にあるジオポリマーの生産工場が完成したのか。

 移動中の小惑星のプラントも順調か。

 これがイビム帝国の宰相・ボネル最後の大仕事になるだろう。

 そろそろ彼も80歳を超えるだろうからな。ヒト族も頑張るものだ。


『……イングェ、旧区画を復活させましょう』

「どうしたんだ、いきなり……」


 旧区画とは、文字通りの意味で、基地で最も古い区画だ。巨大なサイコロのような中央指令室と、地上と地下に設営された球状の居住区を兼ねたあれこれだ。

 現在の設備が完成してからは、使う事もなく放置していたのだが……


『案件256を、私なりに検討した結果ですが…… 何か?』

「い、いや。特に反対する理由はないが……」

『じゃあ、私の方で作業は進めておきますね』

「あ、ああ。任せる」


 そう言えばヤポネス… だったか。東アジアで中心的な役割を果たす大国だ。

 それでも人種の壁は越え難いという事か。

 という事は、だ。最終的にはあそこに収容するつもりかな。

 悪いアイデアではない。


 しばらく仕事を続けているうちに夕食の時間が近づいてきたか。

 食堂に行っている暇はないな。シュタールに引き継がなければならない案件も沢山あるんだ。資料をまとめ直すだけでも時間がかかりそうだ。


「エスター」

『何でしょう?』

「夕食は、ここで食べるしかないな」

『ええ。その方が良いでしょうね。すぐに運び込みますね』


 何か楽しそうだな。まあいいか。


『ヘイオマチ!』


 待つほどもなく、ロボットが夕食の入ったフードコンテナを持ってきた。

 ヤポネスではフードコンテナの事をオカモチとか言うんだったか。

 メニューは何だろ… う…… ううううう?


「エスター!」

『なんですか?』

「スシが来たぞ! 私が生魚を食べられないと知っているだろう?」

『私は何度も聞きましたよ。今週の献立はヤポネス料理でいいですかって。最終確認で了承したのは、あなたでしょう?』

「ぐぬぬ……」


 楽しそうな声でエスターは言った。


『残さずに味わってくださいね』

イングヴォロンは月面基地の初代司令官です。

宇宙で一番ツルハシの似合うエルフかも知れません。(笑)

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