宇宙からきたるもの
年も改まり、節分祭を過ぎたある日のこと。
富士山山頂にある富士山測候所は、いつものように喧騒に包まれていた。
いくつか違う事があるとすれば……
観測員達が、いつになむ神妙な面持ちでレーダー画面をのぞき込んでいた。
高性能レーダーで捉えられた宇宙雲は、ぼんやりとした霧のようだ。雲に含まれる放射能が、それ以上の探知を阻んでいる。
「あれがスペース・フロンティア号が言っていた宇宙雲か」
「ほとんどが太陽の重力に引かれて落下するようですね」
「地球への影響は? ないのか?」
スペース・フロンティア号からの情報で、宇宙雲の正体は放射能を含んだ星間物質だという事がわかっている。そのほとんどがスポンジ状の岩石と、それが砕けてできたであろう砂のようなものだ。
「今回は太陽のむこう側を抜けますから、特に問題は無いと思います」
「もしも、仮にだが。宇宙雲が地球にぶつかったら?」
「地上に来る前に燃え尽きるんじゃないですか」
「所詮は軽石だから、か」
スポンジ状の岩石は、地球上でもよく見られる軽石と似たようなものだ。地中にあるマグマに水分などが含まれていると、噴火した時に一気に蒸発して、スポンジ状の岩になる。これが細かく砕け散ったものが火山灰だ。地球の外では初めて見つかった軽石とは… ドワーフの血が騒ぐぞ。
願わくばこの手に取って詳しく調べてみたいものだ。
「……軽石ですか。かかと削りにちょうど良さそうですねぇ」
「放射能さえなければ、だがな」
「ははっ、違いないですな」
一方、別のフロアでは通信士が大わらわだ。
「コメートからの連絡が途絶えた? 太陽面の活動が活発になった影響か?」
「いや、それは関係ない。通信の途中で、ぷっつり、だ」
「妙だな……」
無数の中継衛星を配置してあるとはいえ、距離が距離である。アンテナの角度がわずかにずれただけでも通信波は目標を大きくそれてしまうものだ。
「10度までの狂いなら吸収できる範囲で中継衛星は配置されてるんだが…」
「それを超えたというのか? あり得ないぞ! 確認は?」
「した。中継衛星に問題はない」
中継衛星同士は、常に通信を続けている。お互いに位置を確認し、アンテナや通信出力の微調整をするためだ。
「デリンジャー現象の影響は?」
「相変わらずです。レーザー通信なら生きていますよ」
「そうか…… ならば、送信側の問題か」
「そういう事になりますね」
同日・同時刻。ロッキー山脈某所
「今回のデリンジャー現象は、あと数日は続くものと思われます」
「その間は、無線が使えないと思った方が良いわけか」
「予想以上に濃密な宇宙雲のようですな」
「それよりコメート号はどうなっている? 観測基地や他の船団は?」
同・スペース・フロンティア号
「副長、通信は回復したか?」
「全くあきまへん。どっちも無事でいてほしいもんや」
「今度のは、がんこ規模が大きいですさかいね」
「そういうたら、宇宙雲の性質も変わってきたような気ぃするんやけど…」
――なんとなく、密度が上がっているというか、今までのように分子雲や微粒子ではない何かのような……
ずどおおぉおん!
船長がそこまで考えていると、いきなり船体が轟音と共に大きく揺れた。
船内の照明が赤色に切り替わり、サイレンが鳴り始める。
「何事や!?」
「宇宙雲です! 粒子が今までのものと違います。これは…… 金属の」
彼等が探知結果を最後まで聞くことはなかった。
目の前の壁が裂け、宇宙空間に吹き飛ばされてしまったために……
連休中は、18時にも投稿します。
そのあとは、6時の投稿だけになります。(多分)