第18筆 剥奪と終幕
「我が息子、タギよ」
「はい。陛下」
「どのような処罰も受け入れると言ったな」
ごくりと、タギが唾を飲み込む。
「はい」
うむ、と王が頷く。
「スコット子爵家のスミカよ」
「はい。陛下」
芯の強さを思わせる青い目が、王の紫を見た。
「タギを好いておるか?」
「はい」
ふふふ、と王妃が微笑む。
王が言葉を変え、再び問う。
「フルミアの第二王子を好いておるか?」
「いいえ」
はっきりと、スミカが答えた。
スコット子爵が顔色を変える。
「スミカ! なんという無礼を!」
王がスコット子爵を手で制す。
「よい。これでわかった」
玉座から立ち上がった。
宣告する。
「タギ・フルミア第二王子よ。汝の身分を剥奪する!」
タギの表情が消えた。
「および、王位継承権も取り上げる。何ぞ、申し開きはあるか?」
「……ありません」
その場に膝をついた。タギは頭を垂れ、従順の意を示す。
「うむ。重ねて命じる」
顔を曇らせ、タギが顔を上げた。
さらなる処罰が下されるのか。
「タギ・スコットと成り、夏の離宮改修へ責任者として携われ」
「なんと!」
タギが驚きに声を上げた。
それは婚約を通り越して、結婚を命じる言葉。
「スコット子爵も、よいな」
「は、はいっ!」
子爵の声が裏返る。
一瞬にして、タギのスコット家へ婿入りが決まった。
タギと子爵の目が合う。
身分を剥奪されたといえども、王家の証である金髪紫目。最も貴い血筋が、なんの後ろ盾も財力も権力もない子爵家に入る。
タギが立ち上がり、スコット子爵の前に移動した。
「王家の力ではなく、ぼく自身の力で、スミカを幸せにします」
くしゃりと、スコット子爵の顔が歪んだ。
涙が、頬を伝う。
「……娘を、よろしくお願いします」
「ああ、義父上様!」
二人が抱擁した。スコット子爵に腕を解かれると、タギは嬉しさに泣いているスミカへ駆け寄った。
抱き上げて、口づけを交わす。
「良い話だナー」
ぱちぱちと、リットが拍手を送る。
「けれども、陛下。スコット子爵家には、離宮改修を賄う財力がありませぬ」
リットの言葉に王は椅子に座り、肘かけに頬杖をついた。
「あら珍しい。陛下が不貞腐れるなんて。ふふふ」
「余は不貞腐れてはおらぬ、王妃。フィルバード公爵家の凄まじいさえずりを聞くことになると思うと、頭が痛いだけだ」
「あら。財貨は、公爵家に負担させるのですね」
「仮にも宮廷書記官が書いた招待状、王宮からの手紙を横取りした罰だ。それに、フラス侯爵家の財産がある」
「まあ怖い。お取り潰しになりまして?」
「本来なら死罪ぞ」
ふふふ、と王妃が微笑む。
「お優しい陛下。ねえ、ラウルもそう思うでしょう?」
「一番怖いのは、この権謀劇を観て微笑んでいられる母上です」
「あら、まあ」
確かに、と一同が同意する。
「そうかしら? 母としては、この場におよんでも、ラウルが王太子ではないことが心配です」
王の眉が跳ねた。
「それは脅しか、王妃よ?」
「いいえ、陛下。おどけてみただけです。だって、あまりにも思惑謀略が飛び交った夜会ですもの。少しは和ませようと思って」
「裏目に出ています。母上」
厳しいラウルの声に、王妃が洋扇を広げる。
「ふふふ。では、椅子のお飾りとして大人しく黙っております」
夜空に浮かぶ三日月のように、その唇が弧を描く。