第15筆 真と偽(しん と ぎ)
「どうして、あなたは夜会にいるのでしょうか? スミカ嬢?」
スミカの青い目が鋭く尖る。
「王宮から、招待状をいただいたからです」
スミカが封筒を取り出した。
招待状の洋紙を広げ、文面を見せる。
「――『清風月の十二夜に、夜会が開催されます。恋い焦がれるあなたとお会いしたく、一日千夜の想いで、王城にてお待ちしております。
美しき白銀門はあなたのために開かれ、人々は、月神の加護を受けたあなたに跪くでしょう。
大広間で、華やかなドレスを身に纏ったあなたと、恋舞曲を踊りたい。
フルミアが第二王子、タギ・フルミア』……うん」
リットがひとつ頷いた。
「恋の招待か。よく書けている」
「そんなはずはありませんわ!」
金切り声が、紋章の間を揺らした。
「ヴァローナ。落ち着きなさ……」
「落ち着いていられるものですか、お父様! スミカに招待状が届くはずありません!」
「それは何故でしょう、ヴァローナ公爵令嬢サマ?」
リットの問いに、間髪入れずヴァローナが答える。
「当然でしてよ! だって、ワタクシが――」
時間が消えた。
しん、と紋章の間が静まり返る。
誰もが、彼女の続きを察した。
顔色を失ったヴァローナが、無言で唇を戦慄かせる。
「――ワタクシが、手紙を横取りしましたもの」
ヴァローナの口調に似せ、リットが台詞を引き継いだ。
「語るに落ちる。
使い古された表現は好きじゃないが、あなたのためにあるような慣用句だな。ヴァローナ嬢?」
「お黙りなさい!」
大音声がびりびりと空気を震わせた。
「ワ、ワタクシは。公爵令嬢ですわ! タギ殿下……の、婚約者です!」
「だったら、自信満々にふんぞり返っていればよかっただろ? 手紙をちょろまかすなんて姑息な手を使わないで」
リットの言葉に、スコット子爵が気色ばんだ。
「なんと卑怯な。それが大貴族のやり方か!」
スコット子爵の非難にも、歴戦のフィルバード公爵は動じなかった。
「残念だ、皆の衆」
これ見よがしに、フィルバード公爵がため息をつく。
「お父様……?」
「冷静になりなさい、ヴァローナ。騙されてはいけない」
フィルバード公爵が、スミカが持つ手紙を指差した。
「その招待状は偽物だ!」