未来人とランプ
ここは今より少し先の未来。ある街中のゴミ捨て場に、古びたランプがあった。
ランプと言っても、イケ○とかのお洒落な照明器具ではない。いわゆる、おとぎ話に出てくるようなあれだ。
手のひらに乗るほどの大きさで外見は薄汚れていたが、自然と目を引くものがある。魔力とでも言えようか。
ゴミ捨て場の前をたまたま通りかかった一人の青年が、魔力にやられたのか、ランプに近づいた。
手にとってみると、薄汚れてはいるが、磨けば綺麗になりそうな様子。見たところ、持ち主もいらないから捨てたのだろう。青年はそれを物珍しそうにしげしげと眺めた後、家へと持ち帰った。狭い一人暮らしの家だ。
帰るなり、青年は一人呟いた。
「やれやれ、やっと仕事がひと段落した。しかしこの時間は面白いテレビもやっていない。そうだ拾ったランプでも磨くとしよう。汚れを落とせばインテリアに良いかもしれないぞ。」
そして、そばにあったティッシュでランプの表面を磨き始めた。しばらく磨くと汚れが落ち、汚れの下の輝きが戻り始めた。すると、なんの予兆もなく突然、ランプからもくもくと煙が立ち上った。
たちまちその煙は広がり始め、狭い青年の部屋をあっという間に埋め尽くした。青年は咳き込みながら言った。
「一体全体何が起こったんだ。ランプが爆発したのだろうか。それともテレビのドッキリ番組だろうか。いやドッキリでなければ、このままでは火事になってしまう。」
すると、不思議なことにたちまち煙が晴れた。青年が部屋を見渡すと、見知らぬ男が部屋の中央、青年の前に立っている。人の姿をしているが、背格好は青年の倍ほどあり、頭にはヨガ行者のようなターバンを巻いている。
明らかに異様な姿。青年は言った。
「やれやれ俺は疲れて幻でも見ているのか。それとも、これがいわゆるランプの精というものなのだろうか。いやまさか。」
すると、突然男が口を開いた。
「こんにちは、私はランプの精です。おとぎ話に出てくるジーニーとは私のこと。あなたがランプを擦ったのであらわれた。なんでも願いを叶えましょう。」
突然願いと言われても困ってしまう。青年はしばらく考えた後、こう言った。
「すまないがこれといった頼みごとはない。部屋が狭くなるから、早く帰ってくれ。」
これを聞いて精も困ってしまった。呼び出された手前、はいそうですかと帰るわけにもいかない。
青年に願いを言うよう勧める。それが仕事なのだ。
「いえいえなんでも叶うのですよ。例えばあなたを素晴らしい美青年に変えることもできるのです。」
「高度な整形技術によって、今では誰でも美青年になれる。珍しくも無い。そんなものを願ってなんになるのだ。」
青年は面倒くさそうに言った。
しまった、面倒なやつに呼び出されたもんだ。しかし精もここで食い下がるわけにはいかない。
存在意義は果たさねばならない。
「ではあなたの寿命を伸ばしてあげましょう。不老不死の体も手に入りますよ。」
と必死の説得をする。
こいつはまだ帰らないのか。青年は嫌な顔をして言う。
「遺伝子技術の発展により、今は誰でも不老不死になった。おかげで人口は増加し、ますます世界が狭くなってしまった。全くとんでもないことだ。」
「では巨万の富を差し上げましょう。一生尽きないお金です。食べたいもの、欲しいものがなんでもあなたのものに・・・」
「遺伝子組み換え技術の進歩で、人々は無料で好きなだけ食物を得られるようになった。また、俺は物欲のある人間じゃない。仕事にもやりがいを感じている。金なんてただの紙屑だ。」
これには精もほとほと困ってしまった。
「あなたが無欲だと言うことはわかりましたが、なんとか願いをお願いしますよ。そうでないと私はいつまでたってもランプに帰れない。精が頼みこむなんて前代未聞だ。」
「しかし願いと言っても、俺には頼みごとなどない・・・」
「そこをなんとか」
この流れ、何度も繰り返すうちに、青年はだんだんと嫌気がさしてきた。こんなランプを拾ったのがそもそもの間違い。
早く帰ってもらわないと近所の間で噂になる。また、部屋が狭くて眠れやしない。そして言った。
「精よ、なんでも叶えると言ったな。」
これに喜ぶ精。
「やっとお決めになりましたか。なんなりとどうぞ」
「精よ俺の願いは、お前を拾う前に戻すことだ」
精は渋々力を使い、かくして願いは聞き届けられた。そしてランプは元のゴミ捨て場に戻された。
ランプの中、精は一人ため息をつく。
「やれやれ近頃はいつもこんな感じだ。どの人間に拾われても、みな願いはないと言う。そして、いつもゴミ捨て場に戻される。これでは商売上がったり。精の存在意義がなくなってしまう。全く世の中どうなってしまったのだ。」
少し先の未来、こうなるのかもしれない・・・・
最後までお読みいただきありがとうございました!
まだまだ拙い文章ですが、大好きな星新一先生のショートショートを参考になんとか書き上げられました。
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