怪しい人には関わっちゃいけない 3
「まじでなんだったんだあいつは…」
突然美少女がやってきたかと思ったら一緒に異世界に住みませんか、いや、この世界で一緒に住みましょうなんて言ってくる。ラノベとかでよく聞く展開だが、いざ体験してみるソレは、ワクワクというより恐怖体験だった。想像の十倍くらい怖い、マジで。
俺は安定した人生を生きたいと思ってる。異世界に行くつもりはサラサラないし、純粋に、異世界に行って単純なハッピーエンドが待ってるとは思えない。ヤーシャには悪いがやはり俺は異世界に行きたくないのだ。
◇
「ふぅ…」
家に帰ったし取り敢えず一息つく事は出来たのだが、まだ安心できない。取り敢えず今日と土日は出来るだけ外出しないようにしよう。アイツとまたどっかで会ったら今度こそ終わりだ。
今日の夢に出てこなきりゃ良いな、ヤーシャ…。
――深夜。
「…ん、う?」
自室で寝ていたら何やらガサゴソという音がして目が覚める。
「なん…だ?」
続いてガチャリ、とドアの開く音がしたかと思うと
「こんばんは、空さん!」
「………………」
はい、大きく息を吸って…
「ぎゃあああああああああああああ!!!!」
◇
「何しにきた!?」
「夜這いです」
「何言ってんだオメェ!?」
「すみません嘘です」
「でしょうね!!てかおまえどうやって入ってきた!?」
「ピッキングしました!」
「ガチ犯罪じゃねぇか!!」
ヤバいヤバいヤバい、ベクトルの違う爆弾発言連続で投下されて頭おかしくなりそう。
深夜、急に部屋に入ってきたヤーシャに俺は近所中にこだまするくらいの叫び声を上げた。夢でも会いたくないと思ってた人が現実で、深夜、鍵を破壊してまで会いにくる。こんな恐怖体験他にあるだろうか?
「座れ!」
「あ、じゃあくつろがせて頂きます」
「そういう意味じゃねぇよ!目の前に立たれてるだけでなんかされそうで怖いんだよ!なんか…こう…正座とかしてくんねぇかな!?」
「あ、はい」
ちょこんと正座するヤーシャ。
「別に私何をする気とかないですけどね」
「何もする気ないやつは人の家ピッキングしねぇよ!」
――十分後
「……はぁ…はぁ」
片や正座しながら、片やベットの上で体育座りしながら約十分間目を合わせるだけという構図が続いた。目を合わせてるだけなのに息切れるとかバトル漫画でもあるかないかって状況だと思う。
「空さん」
「ふぁい!?」
「そろそろ正座やめていいでしょうか、足が痺れてしまいます」
ここ十分間ヤーシャは本当に動かなかったし、俺に何かする意思がないというのは本当らしい。俺も落ち着いてきたし…
「そうだな…楽な格好にしてくれ」
「ありがとうございます!…それじゃ、よいしょっと」
「…ん?何やってんだ?」
正座を解いたと思ったらヤーシャは唐突に見た事のない袋状なものを取り出し、中をゴソゴソし出した。
「それは…?」
「コレは『四次元的なポケット』です!何でもしまえます!」
「そのまんますぎだろ!」
ヤーシャはしばらく袋から何か探してる様な動作をしてたと思うと、しばらくして何かを引き摺り出した。引き摺り出された物は明らかにその袋よりデカかった。
「んしょ、よいしょ…いやぁ、大変ですね」
「何出してるんだ?」
「人をダメにするソファです!」
「何で?」
「空さんが楽な格好にしろと仰ったので」
「楽にしすぎだろ!なに人の家でダメになろうとしてんだよ!」
「今日からここ私の家でもあるので!」
「…あー」
放課後の件、俺一方的に逃げて来たけどヤーシャの方はもう全部決まったつもりでいるのか。つまりもうここに住んで当然だと思ってるのか。
そうだな、俺も落ち着いてきたし、ここでやるべき手段は、うん、アレだな。
「電話するか」
「どこにですか?」
「警察」
「何でですか?」
「ヤベェ奴がいるから」
「どなたですか!?」
「オメェだよ!!」
「………え?え?」
自覚ゼロかよ!
彼女にとってここが異世界だからなのかは分からんが、言動から察するに自分がヤバいことをしてるって言う自覚がないらしい。アレだ、自分を悪だと思ってない最もドス黒い悪だ。きっとプッチ紳士タイプなんだ、こいつ。
ヤーシャの人格の話はさておき、家を特定され、鍵を壊されたというのは十分事案だろう。さっさと通報して平和に事を済ませ…
「…………あれ?」
自宅の固定電話を使ってみるも反応がない。もしかしてこんなタイミングで壊れたのか?
「あ!通報されたくないので電話線は切っておきました!」
「(悪いことしてる)自覚あったのかよ!」
「はい!…って何持ってるんですか?」
「スマホ。電話線切られたならこっちで通報する」
「あ、こっちの世界にはありましたねそんなの!…というか通報出来ちゃうんですかソレ!?おやめください!!」
「やだ」
「ブタ箱にぶち込まれてくっさい飯食うなんて可憐な少女が受けるべき処罰ではありません!」
「自分で可憐って言うなや!言い方全然可憐じゃねぇし!」
「通報したら自爆しますよ!」
「自爆すんの!?」
「10、9、8…」
「オイなんだその意味深なカウントダウンは!?」
「7、6、5…」
「分かった分かった通報しないから!」
泣く泣くスマホを投げ捨てる。
「4、3…………物分かりが良くて助かります!」
……こっわ。
恐怖で相手を追い詰め、助けるための手段を断たせる。見たことある、凶悪事件の犯人の手口ですってテレビで見たことあるよ。この子、純朴な目をしてシステマチックに俺を追い詰めてるよ。
通常、犯人との交渉にはリスクが伴うもんだ。俺もヤーシャと一対一で話し合うというのには少し抵抗があるが…まぁやるしかないか。
「……あのさ、ヤーシャ。悪いけど俺お前を住ませる気ないからな。夕方も言ったけどなんかやばい匂いするし」
「え!?そ、そんなぁ…」
「いやそんな残念がられても…一度も了承した覚えないし」
「許可もらえてると思ってパジャマに歯磨き、娯楽用のトランプも持ってきたんですよ!?」
「お泊まり会か!」
「これじゃあせっかくの空さんとの初夜が楽しめません!」
「お前それアウトだからな!?語感で言ってるだろうけど辞書引いたら完全にアウトだからな!?」
今この小説をR15にしようか悩んでます、はい。
「全く、危ない事言うなよ…。あ、ていうか話変わるけど、まずコレ聞きたいわ。何で俺の家分かったんだ?」
「あぁ、それはですね、ここに来る前に色々下調べしてたので、空さんの基礎的な事はだいたい分かるんです」
「マジかよ…」
「えっと、『相生空。晴定高校二年。家族構成は、父、母、本人の核家族構成』…およ?そういえば空さん、今はお一人なんですか?親御さんの姿がさっきから見えません!」
「あぁ、ウチの親は今は海外だよ。考古学者とかなんとかでさ、仕事の関係で色んな所飛び回ってるんだ。小さい頃は一緒にいたけど、この年になってからは帰ってくる機会も少なくなってきたかな」
「ソレはご立派なご両親…………なのでしょうか?」
「まぁ俺的に文句はないよ。この歳になったらある程度のことは1人でできるし、親のおかげで飯が食えてるわけだし」
「でもやっぱり不安になる事とかありませんか?私が住めばある程度その不安も無くなるかもしれません!」
「ヤーシャと二人の方が不安なんすけど」
「うぅ、そうですか……。ッハ!?」
「どうした?」
「私、気づいてしまいました!空さんの家に泊めてもらう方法!」
「ほう、聞こうじゃないか」
「空さんは私の存在自体が不安だから住むのを許してくださらないんです!」
「その通りだな」
「ならば!私の強みを言って、家に置きたくなるように思って貰えばいいんです!」
「なるほどな」
正直異世界に拉致られそうな時点で家に置こうと思う事はないんだが、何となく強みを言ってくれるのはありがたい気もした。何だろう、ただ自堕落に住むつもりはないという思いが嬉しいのかもしれない。
「じゃあ教えてくれるか?ヤーシャの得意な事を」
「はい、まず私は魔法が使えます」
「そうだな」
確かに魔法が使えるというのはこの世界の住民に出来ない圧倒的な強みだ。
「他にはなんかあるのか?」
「他には…」
「ん?」
「えっと…えっと…」
ヤーシャ…まさかお前…
「あ!いっぱい寝れます!」
「もうネタ切れてんの!?」
「な、何を申しますか!?たくさん寝れるのは私の強みです!」
「いや絶対苦し紛れだろ!初めて見たわこういう場で自分の睡眠事情言ってくるやつ!」
「だからまだありますって!あーじゃあ、その…あ!ドラゴン操縦免許二級持ってます!ほら凄いでしょ!強みあったでしょ!」
「この世界にドラゴンいねぇよ!お前もママチャリで移動してたじゃねぇか!」
「うぅ…じゃあ、じゃあ――
――そんなこんなで数分後…
「ハァ…ハァ…な、なかなかやるじゃないですか…こんな沢山の売り文句を躱すなんて…」
なんで息切れてんの。
ヤーシャの自己アピールコーナーはしばらく続いたが、出てくるのは得意な事というより一発芸みたいなもんばっかだった。結局一番の強みと言える強みは魔法が使えると言う事だった。
「………ていうか強みを言わせて家に住まわせるかどうか決めるって良くないですよ!今時そんな圧迫面接してるの空さんくらいですからね!?」
「アンタが言い出したんだろが!」
「まぁそうですけど!?」
ヤーシャはなんかもう泣きそうだった。
「はぁ……なぁヤーシャ、この際、近くに住むとかなら全然良いんだ、だからせめて俺の家だけは辞めといてくれないか?」
「ダメです!空さんは私がずっと隣にいてお世話してあげないとダメなんです!」
あなた以外から言われたかったよそのセリフ。
「どうしても…ダメですか?」
「う…」
自然な形で上目遣いになるヤーシャについ息を呑んでしまう。
俺を異世界に拉致しようとしてる奴だとしても、ピッキングで俺の家の鍵を開けた奴だとしても、圧倒的な美少女である事には変わりない。シンプルな上目遣いは彼女のどんなアピールよりも破壊力が強かった…が、
「だ、ダメだ…」
ここで折れるわけにはいかない。下心的な気持ちで意見を変えたらそれこそ最低だ。
「そうですか…」
異世界行きを断った時と同じくシュンとするヤーシャ。
「じゃあ…最終手段を使います」
「え」
「私の住民権は話し合いで決めたかったですが…しょうがありません。あの手で、空さんを頷かせてみせます」
それってまさか…
「魔法で直接空さんが私を追い出せないようにします」
「お、おい!」
まずい、コイツ魔法で実力行使するつもりだ!今までただの売り文句として使ってた魔法を俺の洗脳とかに使われ出したら終わりだ!
「行きます…………ホイッ!」
ヤーシャの掛け声と共に、彼女の指先から不思議な光が出る。その光は俺に纏わりつくように揺めき…
「止めろ!………………あれ?」
消えた。
魔法は発動し終えたように見えるが、歯をホワイトニングされた時のような違和感は感じられない。不発か?それとも完璧な洗脳を受けたからこそ何も感じなくなっているのか?
「お、おいヤーシャ、俺に何かしたのか?洗脳とか…」
「いえ、確かに空さんを洗脳するのは手段として手っ取り早いですが、私たちの世界では他人を洗脳、操作するのは禁忌とされています。なので今回はちょっと違う魔法をかけました」
「なんだ、ソレは…?」
「空さんが私を追い出そうとするたびに南アメリカのアマゾンがエグい速さで砂漠化します」
「どういう仕組みなのその魔法!?」
「さぁどうしますか?私を追い出すと地球の生態系が大きく乱れますよ?」
急に強気になるヤーシャ。こいつ、大自然を人質に取りやがった…。
「くそ…」
この魔法、俺がヤーシャを追い出したところで俺自身になんら影響はない。しかし、アマゾンが砂漠化したら多くの生き物が絶滅し、多くの人が困る…と思う、専門家じゃないから分からんけど。
自分を守るために多くの命を犠牲にする。小学校6年間道徳の評定5だった俺にそんな事出来るだろうか?否、出来ない。
「さぁどうします?」
つまり、ヤーシャが最終手段と言った魔法は本当に絶大な威力を秘めたものであり、これをされたら、俺に残された選択は一つしかないのだった。
「…………ヤーシャを家に……置くしかないのか…」
その言葉を聞くと、ヤーシャの顔はパッと明るくなり、
「やったぁ!ありがとうございます♪」
あぁ、言ってしまった…。
「こんな危険人物と2人暮らしなんて嫌だぁぁぁ!!!!」
――翌日
「あ、おはようございます!」
昨日あんな事があった後、いつの間にか寝落ちしていたらしい俺は、ベットから落ちて目が覚めた。人間、ストレスが溜まってると寝相が悪くなるなんて聞いた事があるが、俺にとって昨日の出来事はベットから落ちるくらいヘビーな事だったらしい。
階段を降りるとキッチンの方からヤーシャの明るい声が聞こえてきた。例のメルヘンチックな衣装をキチンと着こなし、何やらせっせと動いてる。
対して俺はまだ寝起きの感覚にフラフラしてた。まだ体が重くて頭も働かない。
「朝ごはんできてますよ!いや、もうお昼ごはんですかね?」
「…うわ、もうこんな時間か」
寝ぼけた目を擦りながら壁にかかる時計を見る。時刻はすでに昼の十二時だった。
「てかヤーシャ飯作ってくれたのか?」
「作りました!空さんがエデンに来てくれたら私がお世話係をすることになってますから!ある程度の家事はこなせます!」
「そうなのか」
「もう並べるので空さんはお席についていて下さい!」
「あ、はい」
言われるがままに席に着く。キッチンの方からは何とも言えない良い香りが流れてきていた。
「はい、どうぞ!」
「ありがと……え?」
ヤーシャがお盆に乗せて持ってきた数品の料理。それらは確かに腹の虫を刺激する様な良い匂いを放っていた、放っていたのだが……見た目の方はかなりヤバかった。見た事のない色のソースに見た事のない形の食材。おそらく地球上にこんな料理は存在しない。
「よいしょっと…じゃあじゃあ頂きましょうか!」
「えっと…」
「どうしました?初日は薬入れるなんてハードな事しませんよ?初日は」
2日目以降は入れるかもしれないのかよ、薬。
「いや、薬が入ってるかどうかよりこの料理自体気になって。何というか…見た事ないからさ、この料理」
「あぁ!そういう事ですか!これはですね、私の故郷の郷土料理でして『ヌケライペップン』って言うんです!」
「何語!?」
「因みにこっちのは『✳︎ ✳︎ ✳︎ ✳︎』って言います!」
「発音すら分からないんだけど!?食べて大丈夫なやつ!?」
「大丈夫です!結構良い匂いもするでしょ?」
まぁ、確かに良い匂いはする。ソレに腹も空いてるし…物は試しか。
「んじゃ、頂きます」
見た事もない物体を口へ運ぶ。
「どうですか?」
「………」
何というか…劇的に不味いとか劇的に美味いとかいうのはない、モヤッとする味だった。未知の料理すぎて微妙な味の原因が地球人の口に合っていないからなのか、ヤーシャの料理の腕が微妙だからなのかすらよく分からない。
「私も頂きます……うん、やっぱり『ニョンガニョンガ』は美味しいです!」
「さっきと名前変わってない!?」
「あ、それは冷蔵庫で余ってたキャベツを使わせていただきました!」
「これキャベツ!?なんか赤黒いんだけど!?食べて大丈夫!?コレ大丈夫!?」
「これから毎日作りますのでお楽しみにしてて下さい!」
「……」
まだヤーシャとの生活は始まったばかり、話し合わなきゃいけない事も沢山ありそうだ…。




