怪しい人には関わっちゃいけない
「異世界に来て欲しいんです!」
学校からの帰り道。さっさと家に帰ってモンハンでもやろうと思っていた俺はそんなお願いをされた。
「お願いします!」
えっと…
「遠慮しときます」
「えぇ!?」
俺の返答に、依頼主である少女は心底驚いた様だった。
「な、何故でしょうか!?」
「何故って…」
まず貴方、誰ですか……?
◇
五月。
柔らかい風が頬を撫で、朗らかな陽が空気を温める。とても過ごしやすい日だった。
「帰ってモンハンでもすっかな」
そんな今日は金曜日。一週間の学校を乗り切った俺は家に帰ってぐうたらするために、友人との挨拶も早々に帰路についていた。
「うゎぁぁぁぁ…」
ん?なんだ?
帰宅後の計画を練りながら歩いてると、遠くからうっすら叫び声が聞こえて来る。
「止まって下さいぃぃぃぃ!」
どこからだ?
発声源は分からないけど、なんか近づいて来てる様な…
ドゴォォォォォォン‼︎‼︎
「うぉぉ!?」
死角から突然何かが出て来て、猛烈な勢いで壁にぶつかった。
「な、なんだ…?」
「うぅ…」
道端でうずくまる何か……あ、これ女の子だ。
「えっと…大丈夫?」
「うぅ…まさかブレーキが壊れてるなんて…」
なんか言ってるけど取り敢えず無事っぽい。ひとまず安心だが…こういう時一応救急車とか呼んだ方が良いのか?引くほどの勢いでスピードで壁とぶつかってたし、この人。
「君、大丈夫?一応救急車とか呼ぼうか?」
「ん?あぁ!心配には及びません!」
壁の前で丸くなり呻いていた少女は、俺の声に気づくと元気そうにすくっと立ち上がり
「私、体は丈夫に作られてますから!」
と、笑ってぴょんぴょん体を動かして見せた。
確かに彼女は傷一つついていないようだった。
あんな勢いで壁にぶつかって何も無いって…当たりどころが良かったのか、それとも本当に丈夫なのか?
「まぁ…無事なら良かった」
ひとまず無傷を確認した所で、彼女の姿を改めて見てみる。
目の前に立つ少女は不思議な容姿をしていた。
滑らかな金髪、整った顔立ち、ゲームに出てきそうなメルヘンチックな服装。何というか、彼女の姿はこの世界の者では無いような雰囲気だった。
マジで何者だ?この子。
「あ!それより!」
そんな事を考えていたら、少女が口を開いた。
「貴方、相生空さんでよろしいでしょうか?」
「え?まぁそうだけど……」
突然フルネームが呼ばれ、少しビビる。
「どこかで会ったことあったっけ?」
「無いですね!」
キッパリ言い切る少女。
「じゃあなんで俺の名前を?」
「それは後で説明します!それより、私、空さんにお願いがあって来たんです!」
「え?お願い?」
「はい!お願いです!」
「どんな?」
「えーっとですね、大事な事なのでしっかり聞いて欲しいんですが……私と一緒に異世界に来て欲しいんです!」
………………。
「…………え?」
「一緒に異世界に来て欲しいんです!」
「うん………え?」
異世界…今異世界って言ったよな?一緒に来て欲しいって。
本気か?この子。
「お願いします!」
あ、本気っぽいっすね…。
えーっと…
「遠慮しときます」
「えぇっ!?」
ガチ驚きを見せる少女。
「な、何故でしょうか…?」
「何故って…」
めっさ怪しいからですよ…。
「あの…異世界どうこうって本気で言ってるのか?何かの比喩とかじゃなく…」
「本気です!空さんには、今から私と一緒にこことは違う世界に来て欲しいんです!」
「うわぁ…」
出会って数分。俺の脳は、礼儀正しい美少女だと思っていた目の前の人間をやべぇ奴という認識に訂正した。
理由は至極簡単、初対面で一緒に異世界来て欲しいって言う人がまともなはずが無いから。以上。
「乗り気じゃ無いって感じでしょうか…?うーん、なんでだろう…。あ!異世界についてよく分からないから不安なんですかね、少し説明しましょうか?異世界について!」
「説明…か」
「どうでしょう?」
「……………そうだな。じゃあ説明お願いしてもいいか?いきなり異世界って言われてもよく分からないんだ」
「はい!かしこまりました‼︎」
少女は元気いっぱいに返事した。
こんな怪しい話、無視して帰ってもよかったけど…俺は彼女の話を聞いてみることにした。
当然異世界どうこうってのを信じるつもりは無い。そんなぶっ飛んだ話、簡単に受け入れられるはずが無い。
ただ、この少女がなんで俺の名前を知っていたかっていうのは確認しておかなくてはいけないし、どういう目的で絡んできたのか気になる。真面目に説明を受けてるふりをしながら相手の目的を探ってみるのもいいかもしれない。そう思った。
「まず私の名前はヤーシャ・ムノ・チャーリンスです!気軽にヤムチャ、もしくはヤムちゃんとお呼びください!」
何その爆死しそうなあだ名。
「……………いや、ヤーシャでいいや。そう呼ばせてくれ」
「そうですか?まぁ空さんがそう言うなら」
「えっと、それで?なんでヤーシャは俺に異世界?に来て欲しいんだ?てかそもそも異世界ってなんだ?」
「そうですね、それを始めから話すと少々長くなりますが…」
「それでも良いよ、聞かせてくれ」
「そうですね、しっかり全部話した方が良いですよね。ではまず最初に…私、異世界出身なんです!」
「…」
出身が異世界、ねぇ…。
「私はこことは違う世界、『エデン』と呼ばれる世界で生まれ育ちました。エデンは空さんの住むこの世界とは違い、科学の代わりに魔法が発達して来ました」
意外と凝った設定を作ってきてるみたいだ。
「とても平和に満ちていたエデンですが…ある時その平和が崩れてしまったのです。そのきっかけは、魔族の復活」
「魔族?」
「えぇ。エデンでは古代、人間と魔族が領土を求めて激しい争いを繰り広げていました。数十年にも及ぶ戦いで勝利した人間は魔族を封印し、エデンで栄華を誇っていたのですが…最近になって誰かがその魔族の封印を解いてしまったのです」
「なるほど、封印を解かれた魔族が大暴れして今のエデンは再び戦乱の世ってわけか」
「そういう事です!ご理解が早くて助かります!」
「でも何で魔族が復活して俺が異世界に行く事になるんだ?」
「それは…空さんが特別な人間だからです」
「特別?」
「えぇ。空さんは私たちの世界の人間でも持ってないくらい膨大な魔力を持っています。もしご協力していただけたら私達は再び魔族を封印し、エデンに平和を取り戻す事が出来るのです!」
「なるほどな」
「分かっていただけましたか?」
「言いたいことはよく分かった…………で、本当は?」
「はい!ホイホイついて来そうなので声をかけました!」
えぇ…。
「………ッハ!?」
しまった!みたいな顔をするヤーシャ。めちゃくちゃあっさりボロ出たな…。
「か、かまをかけたというのですか!?酷いです!そんな方法で私を騙すなんて!」
これ以上無いほどストレートな聞き方でしたけど。
「ぶっちゃけ、どっから嘘ついてた?」
「……………………………………魔族が復活したところ」
「9割嘘じゃねぇか‼︎」
俺のツッコミを受けたヤーシャはどこかションボリしていた。
「全く、よくこんなスラスラと……って、ん?」
ちょっと待てよ?
「えっと、9割嘘ってことはまさか、ヤーシャが異世界出身だとか、エデン?が存在するとか言うのは本当って言うのか?」
「は、はい!そうです‼︎」
俺の質問に食い気味に答えたヤーシャ。信じて欲しいと訴えかけるような目をしていた。
うーんと…
「エデンは本当に存在すると?」
「はい!」
「ヤーシャは本当に異世界から来たと?」
「そうです‼︎」
「本当に俺に異世界に行って欲しいと?」
「そういう事です!!!」
「…………マジか」
………雲行きが怪しくなって来た。
いや、雲行きは最初から怪しかったな…。




