8. 回想 ~あのときのもふもふ~
あれは3歳のころでした。
「猫さん!」
雨の日。
城下町の路地裏で。
人目見ただけで一目惚れするもふもふを見つけたような……。
幼いころの話です。
その毛並みは、幼い私にはあまりにも魅力的で。
突如として現れた猫に、私の心はすっかり奪われてしまったのです。
両親の制止をあっさりと振り切って。
思わず人の少ない裏通りまで、追いかけて行ってしまってしまいました。
そして、見つけたのが……
傷だらけで伏せる鎧を被ったお城の兵士。
そして、その傍で倒れた血だらけのアビー。
私は迷わずアビーに駆け寄ると――
必死でアビーに神聖魔法をかけたのです。
お城の兵士はガン無視で。
アビーにかけられたのは、発現したばかりの幼い癒しの奇跡。
私の力は、まだまだ不完全でした。
アビーの回復を待たずして、パタリと力つきたのでした。
倒れ込んだ私を受け止めたのは、このもふもふ。
うっすらと、このもふもふは至福だった……ということを覚えています。
それは幸せなひとときでした……
◇◆◇◆◇
――アビーは、あのときのもふもふだったんだ!
……じゃなくて。
やけに感触が鮮明に蘇ってきたけど、他に思い出すべきことがあるでしょ私。
「アビー、思い出しましたよ!
どういうことですか、どういうことなんですか!?」
間違いありません。
あの記憶は、間違いなくアビーでした。
すなわち、アビーとお城の兵隊が戦っていたということでしょう。
「あなたは、やっぱり人間の敵だったの?」
『ひめさま、落ち着いて。
人間の国に潜り込んだのは趣味だよ。そこで……いきなり襲われたんだよ』
兵士に襲われたことを、不満げにいうアビー。
ですが、魔族が結界内で見つかったらそりゃ大騒ぎですよ。
「……何の用だったんですか?」
『散歩』
そうですか……。
この短時間で、アビーの性格がちょっとずつ分かってきた気がします。
『思い出してくれたみたいだね、ぼくのこと』
アビーが、ちょこんと私の肩に乗っかりました。
カーくんと呼ばれた黒い鳥も、それに倣います。
「カーくんも、ごめんね。痛かったでしょう?」
気にしてない、というようにカァとだけ鳴きました。
『カーくんは、やっぱり目つきが悪いんだよ。
あれは歓迎してるようには見えないもん』
「食べられるかと思いました……」
あ、しょんぼりしてる……。
カーくんと呼ばれたカラスに似た鳥は、言葉を発することはありません。
ですが、仕草から感情が読み取れるようで面白いです。
『その目つきで突っ込んで来られたら、誰だって怖いって』
しゅん、と私の肩から降りたカーくん。
ズーンという効果音が聞こえてくるようです。
最初に追いかけられているときは、無我夢中で気が付きませんでしたが……。
こうしてみると可愛い顔をしている、気がしないでも?
――うん、無いな
たくましい翼。人の体ぐらい簡単に貫けそうな鋭いくちばし。
何度出会っても、たぶん私は全力で逃げることでしょう。