7. 魔族は人間の敵ではないの?
『カーくん、反省』
なんこれ。なにこれ、なにこれ!?
目の前に生まれたのはなんとも珍妙な光景。
人を狩るために生まれてきたような恐ろしい風貌の鳥を、愛らしい猫がお説教する姿。
――この状態でも、やっぱりかわいい! もっともふもふもしたい!
どうやら命の危機が去ったらしい。
そう分かった瞬間、顔を出したのはもふもふ欲求でした。
思わず抱きかかえようとした私ですが、
『ひめさま! 今は、まじめな話をしてるの!』
そう諭されてしゅんとしました。
そうですね。
真面目な話というのであれば……。
「ねえ、猫様。さっきから言ってる"ひめさま"って何?」
気になりつつ、突っ込みタイミングを逃し気にしないでおいた問題。
それを、改めて尋ねることにしましょう。
『ひめさま! ひめさまは、ひめさまだよ!』
「……私は、王子から婚約破棄された身です。
"姫様"ではありませんよ?」
『ちがうよ! 魔族のひめさま!』
魔族のひめさま! この子はたしかにそう言いました。
疑うまでもなく、私は人間です。
どういうことでしょう?
『ひめさま! ぼくのことは、アビーって呼んでね』
「では、アビーさん」
『アビー。猫に"さん"付けなんていらないよ」
「分かりました、よろしくアビー」
聞きたいことは山ほどありますが。
1つだけ確かなことがあります。
それはアビーを味方に引き入れないと、私はこの魔族領ではまず生きていけないだろうということですね。
「アビー、お願いがあるんだけど……」
『なーに?』
「本当に、図々しいお願いだとは思っています。
私の味方に、この地で生きていくために協力してくれませんか?」
取引材料は、得意の神聖魔法ぐらいしかありません。
この力が、魔族の支配するこの土地で本当に通用するのかは未知数。
そんなことを考えていましたが……
『もちろんだよ、ひめさま!』
まさかの無条件オッケー!
アビーは、すりすりと甘えるように頭を押しつけてきました。
鎮まれ、私のもふもふ欲求!
「魔族は人間の敵ではないの?」
『どうして?』
「魔族は恐ろしいものだって、子供のころからずっと教わって育ちました。
人間界と魔族を隔てる結界が、人間にとっての平和の生命線だって」
そうなんだ、と吞気なアビー。
『でも、人間たちはぼくを見ても恐れる様子はないよ。
可愛い~! って。喜ばれるぐらい』
「その姿なら当然よ! 可愛いもの!
もっと、もふもふさせて!」
『照れるな~』
アビーは笑い声を上げました。
「……ん? アビー、あなた魔族よね?」
『そうだよ?』
「それなのに、結界を行き来できるの?」
結界の中なら絶対に安全。
魔族の侵入を防ぐ、技術の結晶である結界には揺るがぬ信頼を寄せていました。
でも、アビーはあっさりと中に入っていたんですよね……。
『うん。だいたいの魔族は、自由に行き来できるよー。
あの結界は、神聖魔法を使えるものを弾いてるだけだからね。
通れないの、人間ぐらいなんじゃない?』
なんだそれー!?
たしかにどうやって効果を確認したんだろうなーとは思っていたけれど。
自分たちで実証して、そのまま運用したのね!
魔族で実験とかはしなかったのね……。
「な、なら何で人間の国を襲おうとしないの?」
『なんで、そんな面倒なことをしないといけないの?』
きょとんと、アビーが答えました。
魔族は人間を敵視しているもの。
見つかったら殺される。
それが人間にとっての常識でした。
「なんで? なんで、か……」
魔族は、なぜ人間を襲うと思っていたのか。
なぜそれを当然の事実と信じて、私たちは結界の中で生きてきたのか。
アビーの純粋な疑問は、なぜか私の心に深く突き刺さるのでした。
『ひめさま、ぼくの正体まだ分からないの?』
そして、再びアビーの質問。
『あ、そうか……。あの時、ひめさまから記憶を奪ったんだった。
すっかり忘れてたよ、思い出せないのも当然か』
「記憶を……奪った?」
『うん、これまでの人生で一部だけ不自然に欠けている記憶はない?』
う~ん……。
そう言われても、心当たりがありません。
いいえ、そういえば――