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52. そんなものを証拠として提出するつもりだったのですか?

 さすがに名前で呼ばないことに違和感があったので、カレイドル男爵令嬢に名前を付けました。

 「ジュリーヌ・カレイドル」です。これまでのシーンも、自然になるように直していく予定です。

 フォード王子は、淡々と罪状を読み上げました。


「フィーネ・アレイドルは自らの権力を悪用し、ジュリーヌ・カレイドルを暗殺しようとした。

 私は『まさか王妃になろうという婚約者が、そのようなことをするはずが……』と信じられず、主催するパーティーで事情を聞くことにしたのだが……」


 傍聴席の貴族たちに訴えかけるように、フォード王子は大げさに首を振って見せます。


「あろうことか、フィーネ・アレイドルは実家の権力をひけらかし開き直ったのだ。

 謝罪の1つもないどころか、私の目の前でジュリーヌに殺害予告までする始末だった。

 私は、このままでは未来の国母であるジュリーヌに被害が及ぶ可能性があると判断した」


 よくもそこまでスラスラと噓を付けるものです。

 怒りを通り越して、いっそ感心してしまいます。



 ――私が無罪か有罪かすらもどうでも良いのでしょうね



 自らの地位を守るためには、私が大罪人でなければいけないのですから。

 王族としての最低限のプライドすら失った愚かな人。



「フィーネ様。ここまで殿下の言うことに相違はありませんか?」


 裁判長が、私に確認してきます。

 相違ない、というか……



「全てが大噓です。

 フォード王子は、ひとかけらの真実も口にしていません」


 裁判という場では、感情的になっては損をするものです。



「何度でも言いますが、カレイドル男爵令嬢の件は冤罪です。

 やってもいないことを認めるはずもないですし、権力で悪事を揉み消すようなやり方は我がアレイドル家がもっとも嫌う卑怯なやり方です。家名に誓ってあり得ません」


 学園で、私のことをよく知っている者が大きく頷きました。

 私がフォード王子をいつも陰で支えていたことを知る者は、決して少なくありません。


 心配そうにこちらを見ている者。

 励ますように頷いてくれる者。

 人間領にも、たしかに私の味方は居ます。



「ジュリーヌさんに対して、殺害予告なんてするはずがありません。

 なんのメリットもないですから」


「ふざけるな! これほどの証拠も揃っているのだぞ!」


 フォード王子が顔をムキになって割り込んできますが、裁判長に「静粛に」と(たしなめ)られすごすごと席につきます。



 証拠ですか。

 思わず鼻で笑ってしまいます。


「……そんなのが証拠とは、本当に笑わせてくれますね。

 暗殺者が依頼内容の記された紙を持ったまま任務に当たると、本気で思っているのですか。

 そんなものを証拠として提出するつもりだったのですか?」


 ジュリーヌさんが用意した証拠なのでしょう。


 少人数を相手に、勢いで押しきれば良かった断罪パーティーの場とは違うんです。

 都合よく揃いすぎた証拠で、あまりにわざとらしすぎます。

 そんな見え見えの偽の証拠が、正式な裁判の場で採用されるはずがないでしょうに。




「このように裁判を経ることなく、独断で魔族領への追放を決断したこと。

 それ自体が、あまりに横暴です。非情に危うい行為だとは思いませんか?」


 私は傍聴人にも訴えかけるように、言葉を投げかけます。

 

 王族の権力を、これ以上ない形で理不尽に振るった悪しき前例だと言えます。

 このまま王になれば、後々まで語り継がれる愚王としてこの国を破滅に導くことでしょう。

 怒りにわなわな震えるフォード王子を、私は冷ややかに見つめました。




「……緊急の措置であり――ジュリーヌを守るためには仕方なかったのだ。

 魔族領への追放刑は、妥当なものであったと私は確信している」


 勢いをなくしたフォード王子は、それでも諦めずに愚かな発言を繰り返しますが。

 もはやフォード王子の正しさを信じ切れる者は、この会場内にはいないようでした。

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