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49. なるほどな、魔王様が惚れ込むわけだ

 カレイドル男爵令嬢とのやり取りを終えて。

 あいつの思い通りにさせてなるものか、と私は決意を新たに今後の方策を練ります。


「フォード王子の言い分は全くの言いがかり。

 仮に遠見の魔法での発言が認められたとしても、私が魔族と組んで国に敵対しているという証拠になるはずがありません」


 私の潔白を証明することが、そのまま魔族に敵意がないということの証拠にもなる。


「なぜ魔族たちに助けられたのか? というのは確実に聞かれるでしょう。

 最初からこの国に攻め入るために魔族と内通していたから助けられた、フォード王子はそう主張するつもりでしょうね」


 結界のおかげで魔族はこの国には入ってこられない、そう信じられているはずです。そんな中どうやって魔族と内通していたと主張するのかは興味深いですが……


「正直に答えるなら。幼いころに魔王の部下を無意識に救っていたため、魔王に恩人と思われていたんです、という答えになりますが……」


 ――すごい嘘っぽい



 真実は作り話よりも噓っぽい。本人ですら、いまだに信じられないような出来過ぎた話なのです。

 なんならフォード王子の主張する「復讐のため魔族と手を組んで、人間を滅ぼそうとした」という主張の方がよっぽどあり得そうと思わせます。



 ――だとしても、正直に話すしか道はありませんよね


 私は手の中にすっぽりと収まる小さな宝玉を、そっと握り込みました。

 たとえ話すことができなくとも、魔王様が今も見てくれていると思うだけで勇気がわいてきます。

 たとえ道が困難だったとしたって。こんな事で、へこたれている場合ではありません。



◇◆◇◆◇


「貴族裁判の日程が決まったぞ。今から2日後だそうだ」

「そうですか……」


 答えのでない思案に沈んでいると、地下牢まで兵士が伝えにきました。

 ずいぶんと急な話です。



「へへっ。我らがひめさまは、これからの自らの命運が決まろうっていうのに、随分と落ち着いてるんだな?」

「え……?」


 人間の中にその呼び方をする者はいないはず。

 だとすると……



「あなたですね。重要な情報を引っこ抜いて、ポンポンと魔族領に渡しているスパイは」

「スパイって、また人聞きが悪いことを」

「事実じゃないですか……」


 国家転覆罪の疑いでとらえられた大罪人、牢の中で魔族領のスパイと秘密裏に会談。フォード王子がこの場面を見たら「ほら見たことか!」と声高に叫びそうです。


「それで、いつごろ事を起こすんだ? 和平交渉のためなんてのは表向きの理由だろう。

 結界内に潜伏している魔族たちの士気は十分だぜ」

「冗談でもやめてくださいね?」


 いきなり何とも恐ろしいことを口にする魔族に、私はぎこちない笑みを浮かべます。

 魔王様が、どんな気持ちで私を送り出したと思っているのか。


「でもよ、この国は本当に腐ってると思わねえか?

 フォード王子は滅茶苦茶だし、放っている国王も大概だろう」

「否定はしません」


「フォード王子の策略で、人間は魔族への警戒心を強めている。

 ……この火種を利用して、戦争を起こしたいやつがいるんだろうさ」


 脳裏をよぎったのは、戦争が起きた後のことを平然と話すカレイドル男爵令嬢の姿。



「魔王様が人間と和平が結べると夢を見ているのは、ひめさまが原因だろう?

 甘っちょろい夢を見るのは勝手だ。けどな、魔族が滅びに向かうような選択を、取らせるわけにはいかないんだわ」


 魔族がおそれているのは歴史を繰り返すこと。だまし討ちのような形でまた魔王が討たれること。



「大勢の血が流れた後に、何が残るというんですか」

「多少の犠牲で、魔族の平穏が保たれるなら安いもんだろう」


 目の前のスパイは、彼なりに魔族の未来を考えているのでしょう。

 だとしても、私は魔王様の期待を背負ってここにいます。例え魔王様の配下の魔族であったとしても――邪魔されるわけにはいきません。



「そんな勝手を、許すわけにはいきませんよ」

「ほう。非力な人間のくせに。

 許さないと言って、どうするつもりだ?」


「……魔王様に、あなたの暴走を伝えます」


 残念ながら力づくで魔族を抑え込むことはできません。

 大口を叩きはしましたが、私にできることは魔王様にここで起きていることを伝えるのが関の山。



「その宝玉は、ひめさまの命綱じゃないのか?

 もしここで人間たちに襲われでもしたら、身を守るすべもないだろうに。そんなことのために使っちまって良いのか?」


「止める手段がそれしかないなら、私は迷いませんよ。

 私の身よりも、魔王様にこの情報を伝える方が大切ですから」


 スパイの魔族の顔を見据えて、キッパリと私は告げる。



「ふっ……。なるほどな、魔王様が惚れ込むわけだ」


 

 魔族は一瞬ほうけたような顔をしていましたが、やがてふっと表情を崩すると穏やかな笑みを浮かべたのでした。

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