45. 私の居場所は魔族領です、必ず帰ってきます
私が和平交渉の使者として人間領(結界内のことを、魔族たちはこう読んでいました)に戻ることは、あっという間に魔族たちに伝わったようです。
対応が決まった後は、魔族領の者たちの行動は迅速でした。
私の希望を汲み取る形で――翌日には、人間領に戻るための準備が整えられたのでした。
魔王城を出発する私を見送るのは、ブヒータさんとゾンビのヴィル。
そのほか歓迎パーティーで話した魔族の姿も見え、見送りはかなり大人数。
来たばかりの私のために集まってくれたことを思うと、なんとも嬉しくなります。
「俺たちの部隊には、ひめさまの力が必要だ。
まずは人間のクソ王子を張っ倒して――また魔族領に戻って来いよ!」
「ありがとうございます。
癒しの魔法について――期待させておいて、ごめんなさい」
「悪いのはクソ王子だろう? そんな無茶苦茶な理論聞いたことがねえ。
癒しの魔法は……ひめさまが戻ってくるのを楽しみにしているさ」
酔いのさめたブヒータさんは凛々しい顔で。
「ゾンビの宿命とまで言われたイガイガ虫を治療して頂いたこと。
私、ひめさまへのご恩は一生忘れませんぞ」
「大げさですよ」
足の痒みが消えたゾンビのヴィルは、ややいつもより血色の良い顔で(ゾンビだけど)
「見送りありがとうございます。
必ず戻ってきます」
私は魔族領にとって、火種にしかならなかったというのに。
見送る2人の声はとても暖かい声で。
――良いひとたちだな
改めてそう思いました。
◇◆◇◆◇
私を人間領まで送り届けるのは魔王様とリリーネさん。
わたしたちは巨大化したアビーの背中に乗っかり、移動していました。
『ひめさま、随分とカーくんとも打ち解けたんだね』
「ゾンビのヴィルや、ドラゴン。
カーくんより怖い魔族もいっぱい見ましたし――心優しいことが分かりましたからね」
私の肩に乗っかるカーくんの頭を、私は優しくなでます。
カーっ、とどこか嬉しそうに鳴くカーくん。
「本当は、魔族領中をこうして案内したかったのだがな……」
「全部、空気を読まない馬鹿王子が悪いんです。
魔族領内をヴァルフレア様に案内してもらうこと――戻ってきてからの楽しみにしておきますね」
これが人間領に戻るための道のりでなく、自由気ままに魔族領を見て回れるならどれだけ良かったことか。
「どこか行きたい場所はあるのか?」
「ごめんなさい、魔族領については何も知らないので……」
一緒に行くのが魔王様なら、きっと行く場所がどこであっても楽しい。
私は少し考えると、こう言いました。
「しいて挙げるなら――ワインや果実酒の原料を栽培している畑とかは興味あります。
歓迎パーティーのお酒は本当に美味しかったです」
「フィーネ嬢は、本当にお酒が好きなのだな……」
「そ、そんなことはないですよ――?」
呆れたように魔王様が笑い、釣られてリリーネさんも笑います。
うう、二日酔いのイメージが残っている呪いでしょうか。
どうにかしてイメージを払拭せねば。
「冗談です。ブヒータさんの依頼もあったので……。
魔法を込めるための結晶石を見に、よく取れる場所に行きたいですね」
「む、お酒は良いのか?」
「ヴァルフレア様の中で、私はどれだけお酒が好きなんですか~!?」
「冗談だ」
ふふっと魔王様が笑います。
こんな一面もあるんですね――最初会ったときの無口でぶっきらぼうだったイメージとは大違いです。
やがて――私を迎える結界が見えてきました。
魔族には何の効果も発揮しない、何の意味も持たない結界。
しかし魔族を拒絶する、という意志だけは感じさせる光の壁。
「フィーネ様、あなたは魔王様の言う通り素晴らしいお方でした。
この短期間の間に、多くの魔族の心を掴み。
……それだけでなく、人間との戦争を回避する為に、危険を承知で単独で敵地に乗り込むなんて」
「敵地って。
一応、私たちの生まれ故郷ですよ……?」
「ええ。でも……敵地みたいなものでしょう?」
人間を恨んでいる、とはっきり口にしたリリーネさんにとっては敵地。
人間領を追放された私にとっても――帰ってくる場所はここ、魔族領です。
「これから和平を結びに行くのに、敵地なんて言ってはいけませんよ。
……私の居場所は魔族領です、必ず帰ってきます」
「――またお仕えできる日を、お待ちしています」
リリーネさんは静かにそう答えたのでした。
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