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44. 覚悟を決める必要がありますね

 フォード王子のもとに戻ったとき、私がどうなるかというのは――かなり部の悪い賭けだと思います。

 私に万が一が起きたら人間を滅ぼすなどというのは、あり得ない誓いだと思いますが……。

 魔王様の眼差しは本気も本気。


「あ、あのヴァルフレア様?。

 私に何かあったときには、私のことなんて忘れて――」

「悪いが、それは無理だ」


 やんわりと言いかけた言葉は、ピシャリと魔王様に遮ります。



「代わり、などいる筈もあるまい?

 それとも――何の勝算もなく、戻ろうとしていたのか」


 そう問いかける声には、静かな怒りも含まれており。

 生半可な答えは許さないと、いう意志を感じます。



 魔王様の意志を跳ね除けてまで選んだ道です。

 悲しませないためにも。

 悲惨な道を選ばせないためにも。


 ――覚悟を決める必要がありますね




「一度は追放した私を呼び戻すのです。

 フォード王子は、私に何らかの利用価値を見出したのだと思います」


 目指すは、人間と魔族が争わない世界。

 今でも人間と魔族の間で大規模な争いは起きていませんが、その理由は「本当は魔族に効果のない結界」という何の根拠にもならないもの。

 どちらかの心変わりで、あっさりと崩れ落ちる均衡に過ぎません。



「そうして突き付けられた要求と引き換えに、魔族に手を出さないことを誓わせる。

 ……というのが私の考えていたプランですが――」

「具体的なことはなにも考えていなかったのか……。

 ほとんど無計画に等しいではないか」


 プランとも呼べない私の考えに。

 魔王様は呆れたように呟きました。



「結界内に忍びこんだ魔族からの報告だ。

 独断で婚約破棄・魔族領への追放を行ったフォード王子のやり方には、一部で随分と批判が集まっているそうだ」


 そりゃそうでしょうね……。

 


「カレイドル男爵令嬢などという、何の正当性もない相手を新たなる婚約者に選ぼうとしているのも、大きな隙を与えているな。

 今回の騒動で、随分と多くの敵を作ってしまったのだろう。

 今回の追放騒動は、妥当性のない第一王子の暴走だという反発も多い。

 第二王子を次期王に、と押す声が高まっているそうだ」


 ここまで情報が筒抜けになっているなんて。

 結界内に忍び込んだ魔族が優秀すぎて怖いです。

 


「カレイドル男爵令嬢を妻とし、どうにか次期王となるため。

 その正当性を認めさせたい――そう考えたときに、フィーネ嬢に己の罪を告白させれば良いと思い立ったらしい」


 え、ええ……?

 フォード王子は、やはり後先のことを何も考えていなかったのだと、他人事のように哀れに思っていましたが。

 忘れた火の粉が飛んできて、乾いた笑いが出てきます。

 浮気相手と一緒になるための尻拭いを、なぜ私がしなければならないのでしょう。



「あ、あのフィーネ様。

 フォード王子は、なぜそのような要求をフィーネ様が呑むと考えているのでしょう?

 常識的に考えて、フィーネ様に何のメリットも無いでしょうに……」


 リリーネさんが困惑したように私に尋ねますが、馬鹿王子の脳内を読み解くのは私にも無理です。

 まったく同じ質問を、本人にぶつけたい。

 なぜ私が泥をかぶらないといけないのか、と。



「でも、これは利用できるかもしれません。

 私に罪を認めさせたい、というのなら貴族裁判が開かれるでしょう。

 公の場で発言権が与えられるなら――」


 私は身の潔白を証明できる。

 それと同時に、人間と魔族の戦争についての真実を明らかにする。




「裁判とは名ばかりの、一方的な断罪の場になるのではないか?」


 魔王様が心配そうに口にしました。

 思い出されるのは、王子とカレイドル男爵令嬢による断罪パーティーの場。


「……その心配はないでしょう。

 そのような事をしては、都合の悪いことを隠そうとしていると見られます。

 わざわざ厄介者を呼び戻した意味がありません」



 自身の行為の正当性を認めさせるため。

 フォード王子は、私を擁護する者に「私がいかに性悪な悪女なのか」というのを見せつけ、反論を封じようとしているのでしょう。



 ――ならば私は、その場を最大限利用させてもらうとしましょう。

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