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43. 決して悪いようにはなりませんよ

「そ、それは……」


 勢いを失った魔王様に対し、私は諭すように言葉を続けます。



「アビーを助けたことで『この国の恩人』とまで言っていただけて。

 すべては偶然ですが。ヴァルフレア様からの評価は、本当に嬉しかったんですよ。

 フォード王子からは無視され続けた人生でしたから。

 ――誰かに必要とされているってだけで嬉しかったんです」


 

 魔王様は私の言いたいことを、悟ってしまったのでしょう。


「本当に国の恩人にならせてくださいよ。

 人間と魔族の戦争を防いだと。

 胸を張れる生き方をさせてください」


 人間と魔族が全面戦争に突入してしまうことを、魔王様が恐れていたことは知っています。

 そのような未来を防ぐために、私にできることがまだあるのなら。



「ヴァルフレア様?

 フォード・エルネスティアの要求を受け入れましょう」


 魔王様は優しい人です。

 私の言うことを理解した上で、それでも認めたくないと苦悩の表情を浮かべます。


「出来るわけがないだろう。

 よりにもよって余に、そのような選択をしろと言うのか……」


 私としては、伝えたいことは伝えきったつもりです。

 あとは魔王様の判断を信じて待つしかありません。

 そして重々しい沈黙が訪れるのでした。




「魔王様、申し訳ありませんでした」


 代わりに口を開いたのはリリーネさん。



「私は自分の恨みを、魔族たちを――魔王様を利用して晴らそうとしていたのかもしれません。

 魔王様が言い出したのだから、その指示に従うだけだからと。

 そんな卑怯なことを考えていました」


 

 リリーネさんの懺悔を、魔王様は黙って聞いていました。


「だからこそ言わせてください。

 自身の行動の理由を、誰かに押し付けるのは卑怯です」

「そのようなつもりはない、余はただ……」

「そんなつもりが無くてもです。

 見てくださいよ――フィーネちゃんの辛そうな顔を」



 魔王様が戦争の責任を私に押しつけている、などとはもちろん思いませんが。

 リリーネさんの発言は、魔王様に響く部分があったようで。


「魔王様がそのつもりでなくても。

 『フィーネちゃんを失わないために』と口にするなら、押し付けたも同然です。

 数え切れないほどの屍の上に、フィーネちゃんを立たせるつもりなのですか?」




 言い訳する魔王様を、リリーネさんは冷静に諭します。

 リリーネさんの言葉は厳しく。

 しかし部下として、魔王様のことを信じているからこそ出てきた言葉。



「――余はどうすれば良いのだ?」


 途方に暮れたように。

 魔王様は弱々しく呟きました。




「悲観する必要はありません。

 決して、悪いようにはなりませんから」


 私の発した、何の根拠もないひと言を。

 人間に等しく恐れられる魔王様が、縋るような眼差しで聞いています。


「ヴァルフレア様が先代から引き継いだ願い――人間と魔族領の平和の実現。

 私が結界の中に戻るのは、その道のりの大いなる一歩となりますよ。

 私を信じてください」


 戻ったところで、私は大罪人。

 まともな弁論の機会など与えられずに殺されるだけかもしれない。

 そんな魔王様を不安にさせるような事実は、そっと胸の奥にしまい込みます。



 それに、勝算はゼロではありません。

 フォード王子が私を呼び戻すのは、私に何らかの利用価値を見出したから。

 付け入る隙はあるはずです。



「今日のお茶会で、この手紙について明かしたときは。

 なんと言われても――城に閉じ込めてでも、手放すまいと思っていた。

 フィーネ嬢。貴様は、ほんとうにどこまでも余の予想を超えてゆくのだな。

 ……そこまで言われては、見送るしかないではないか」



 魔王様は目を閉じて、観念したようにそう呟き、



「フィーネ・アレイドル、人間と魔族領の和平の使者として、貴様を人間領に送ることとする。

 先代から引き継いだ夢を実現するため――その力を貸してほしい」


 頭を下げてそう頼んできたのでした。

 人間と魔族がこのまま戦争を始める最悪の事態は、どうにか防げました。

 私はほっとため息をつきます。


 ですが、話はそれだけで終わらず――


「これだけは心に刻んでおけ。

 貴様に万が一のことがあれば――余は人間を根絶やしにする。

 魔族領中の魔族を召集して、どちらかが根絶やしになるまで決して戦いを止めないからな」



 なんとも恐ろしい誓いを立てたのでした。

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