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38. 貴族のマナーは、そんな万能なものではありませんよ

「はいはい、ご馳走様です」


 リリーネさんの、もはや面倒そうな様子で会話を打ち切り。

 ついでのように、こちらに向き直ると


「魔王様は、決してマナーだからとフィーネちゃんを褒めたわけではないですよ。

 だからそんなに拗ねなくても――」


 ――何てことをいきなり!?


 ごほっごほ。

 飲んでいた紅茶にむせてしまいました。

 手慣れた様子で紅茶をふき取り、背中をさするリリーネさんが憎いです。




「す、拗ねていたというのは……?」

「何でもないです、忘れてください」


 とっさに表情を取り繕います。

 辛うじて貴族令嬢としての仮面をかぶり直そうとして

 

 ――そういうところですね


 ふう、と紅茶のカップをテーブルに置きました。


 ここでは、ちょっとぐらいワガママになっても良い。

 そう歓迎パーティーを通じて、教えてもらいましたからね。



「嬉しかったんですよ、ドレスを褒めて頂いただけで。

 心からの褒め言葉なんて、今まで受け取ったことありませんでしたから。

 それなのにお茶会のマナーに従っただけだというのは。

 ……面白くなかったんです。それだけですよ……」


 ――何を言ってるんだ私は!?


 最後は消え入るような声で。

 言葉にすればするほど恥ずかしさが増します。


「貴様には、フォード王子という婚約者がいたのだろう?

 気の利いたことも言えない余とは違い。

 王子ともあれば、歯の浮くような言葉をいくらでも口にしてきただろう」


「その名前は、思い出したくもないです。

 あの馬鹿王子は、カレイドル嬢しか見ていませんでしたから。

 私はお邪魔者、最低限の礼儀だけ失さない程度の付き合いの後はポンと放置ですよ。

 いっつも薄っぺらい笑顔を貼り付けて……」


 楽しいお茶会にしようと思って来たはずなのに。

 口からこぼれ落ちるのは、忘れようと思っていた人間領での記憶。

 聞いていて楽しいはずもない愚痴。


「ごめんなさい。こんなことを話してしまって。

 聞いていて楽しい話ではないのに」

「構わぬ」


 ぶっきらぼうでありながら、確かな気遣いを感じさせる言葉。

 やっぱり魔王様は優しいです。




「口下手な余では、フィーネ嬢を喜ばせることは出来ないと。

 呆れられてしまうと、そう思っていた」

「そんなこと、あり得ませんよ」


「お茶会、貴族のマナー。リリーネに聞けば、それらは相手に最大限の敬意を払うことだと言っていた。口下手な余でもお茶会での振舞いとしてなら、マナー通りなら相手を傷つけることもないだろうと」


 人間のお茶会の様式に合わせていたのに驚きましたが、そんな理由だったんですね。


「リリーネには、そんなことする必要はないと止められたのだがな。

 結局は、付け焼刃でこのような場を開くことになってしまった……」


 ポツリポツリと魔王様。

 

 相手に最大限の敬意を払うための貴族のマナー、ですか。

 マナーの講師に言われたのと同じことで、納得できる考え方ではあります。

 特にお互いに貴族である場合、マナーを守らないのはあなたを軽く見ていますと宣言するも同じこと。



「貴族のマナーは、そんな万能なものではありませんよ。

 それが原因となったすれ違いだって、数え切れないぐらい見てきました」


 そうしたすれ違いを利用し、あの手この手で誰かを蹴落とそうとする輩も。


「ここでの歓迎パーティーで、私は学びました。

 本心は口にしないと伝わらないって。

 完璧である必要はない、口に出しても良いんだってことも」

「そうか……」


 その結果が、あの二日酔いですけどね。

 それでも見捨てられることもなく。

 こうして話をすることが出来ている。



 私が貴族としての対面を気にしたまま過ごしていれば。

 きっと歓迎パーティーを通じて魔族たちと仲良くなることも無かったでしょう。 



「少しだけで良いですから。

 在り方に囚われず、有りのままのヴァルフレア様の姿を見せてくださいね」


 恥ずかしさはピークを通りすぎもはやゼロ。

 未だに反射的に貴族としての仮面を被ってしまうことはあるので。

 それこそ「おまえが言うな!」とも言われそうな内容ですが、私はそう魔王様に伝えました。

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