30. 誇大広告にもほどがありますからね!?
『ひめさま、こっちこっち』
部屋から出た私を、先導するのはアビーです。
ちょこちょこと歩くアビーを、私とリリーネさんが追いかけます。
「すいません、リリーネさん。
結局、着いてきてもらうことになってしまって」
「いつまでもブヒータが倒れているのは、陸軍が機能停止しかねない由々しき事態です。それを解決するため、となればお安いご用ですよ」
私が謝ると、リリーネさんはそう答えてくれました。
それは責任重大ですね。
アビーの後に続く形で、魔王城を歩き続けること10分。
ようやく見覚えのある光景が視界に入りました。
締め切られた巨大な門、その前に見張りとして立っているのはゾンビのヴィルでした。
◇◆◇◆◇
「今日もご苦労様です」
「あ、フィーネ様! もう二日酔いはよろしいのですね!」
「え、ええ。ご迷惑をおかけしました」
軽く会釈をしながら挨拶をすると、ヴィルから返ってきたのはそんな言葉。
なんでヴィルまでそのことを知ってるですかね?
「リリーネさん。二日酔いで寝込んでたこと、魔族全体に伝わってたりしないですよね?」
ちょっと引きつった笑みでリリーネさんに尋ねると、そっと目を逸らされました。
そんな私の様子に構うことなく、ヴィルは言葉を続けました。
「それで、フィーネ様は今日はどちらへ?」
「ブヒータさんに会いに、兵舎までに向かう途中です」
「むむ? あいつ、何かフィーネ様を怒らせる事をやらかしたんで?」
同僚を心配しているのでしょうか。
私が否定するよりも早くアビーが答えました。
『そろそろ、ひめさまの癒しの力を知ってもらおうと思ってね。
魔族にも効果がある聖属性の癒し魔法なんてある筈がない! と、疑ってた魔族も少なからずいるからさ。重要性を理解してくれるブヒータには、是非ともアピールしておきたいんだ』
私のワガママから成り行きで決まったと思っていましたが、そんな理由もあったんですね。
魔王様は、私のことを国の恩人だからと大切にしてくれていますが。
ここに住まわせてもらう以上、一緒に住む魔族にも認めてもらう必要がありますね。
たかだか二日酔いの治療と思っていましたが、重要なミッションになりそうです。
「アビーに聞きましたが、吾輩も半信半疑ですぞ。
聖属性魔法なんて、魔力だけでもゾンビにとっては天敵中の天敵。
体に害が無いなんて、まずあり得ませんぞ?」
聖属性魔法は魔族相手の切り札になり得る。たしかに結界の中でそう習いました。
その理由は、聖属性の魔力そのものが魔族にとって猛毒だから。
故に、その魔力を込めた力は例外なく魔族への切り札となり得る。
ヴィルの言っていることは、人間と魔族どちらもが信じている常識でした。
『そこがひめさまのの凄いところなんだよ!
ひめさまの癒しの魔法は、なぜか魔族にまで効果のあるんだよ。
そうだ、ヴィルも何か頼んでみなよ』
たまたま幼少期に助けたというだけなのに、この全幅の信頼。
アビーのこの自信はどこから来ているのでしょう。
「癒しの術、というのは具体的にどのようなことができるですかな?」
『ひめさまの癒しの術でできないことなんて何もないよ!』
適当なことを言うのはやめて頂きたい。
誇大広告にもほどがありますからね!?
「なら足に住み着いた、にっくき虫を取り除くことも?」
痒くて痒くてたまらない、と文句を言いながらヴィル。
近くに置かれていた椅子に腰掛けると、靴を脱ぎこちらに見せてきました。




