29. ブヒータさんに、癒しの力が必要なんですか?
「いえいえ、フィーネ様。
お客人にそんなことをさせる訳にはいきませんよ」
慌てたリリーネさんがそう答えます。
「そうは言っても。リリーネさんの忙しさを知りながら、何もせずにいるのは落ち着かないですよ。
来たばかりでは、あまり役には立たないかもしれませんが……」
考えてみれば、忙しい中に素人が混ざっても邪魔なだけ。
迷惑な申し出なのかもしれませんが……。
『ひめさまの意志を汲むべきだよ』
そう提案してくれたのは、アビーさんでした。
『ひめさまの癒し奇跡を、他の魔族にも知ってもらうちょうど良い機会だよ。
それに、ブヒータにはそろそろ元気になって貰わないと困るし』
「なるほど。
たしかにフィーネ様の力は、私も興味がありますね」
いきなりの無茶ぶりです。
私の扱う癒しの魔法なんて、ごくごく普通の聖属性魔法ですからね!?
「ブヒータさんと言うと……私に毒キノコを勧めてきたオークでしたっけ?」
「その通りですよ。
反省もせずひたすら飲んだくれて。
ふっふっふ。元気になったらどうしてくれましょうね」
リリーネさんの目が一気に据わったものになりました。
『悪気はなかったと思うんだ。
後できつくお灸を据えておくから、許してあげて?』
「構いませんけど……。
死にたくないので、同じことを繰り返さないようにお願いしますね」
ブヒータさんの人柄的に、料理を勧めてきたのはきっと親切心から。
恨む気は無いですが、魔族との違いを感じる思い出で恐ろしくもあります。
アビーたちが一緒に来てくれるなら、滅多なことは起こらないと思いますが。
「お任せください。
一から徹底的に教育してさしあげますので」
リリーネさんの良い笑顔。
目はまったく笑っていないです。
そういえばオークのせいで片付けが大変だとも言っていましたし、不満が溜まっているのかもしれませんね。合掌。
「ええっと。ブヒータさんに、癒しの力が必要なんですか?」
つい2日前には、誰よりも歓迎パーティーを満喫していそうでした。
あれだけ元気だったブヒータさんが、今では癒しの力を欲しているというのでしょうか。
何が起きたというのでしょう、知らない仲ではありませんし心配です。
「ほっときゃいいのよ、完全に自業自得。
フィーネ様のお手を煩わせるなんて、とんでもない」
『リリーネさん、二日酔いは辛いよ。
ひめさまなら分かってくれるはず』
前言撤回、ちっとも心配じゃなくなりました。
そして、二日酔いの辛さに同意を求めないで欲しい。
とってもよく分かりますけど……。
「オークって酔いが長引きやすい種族なんですか?」
「あの馬鹿たちは『二日酔いの特効薬は迎え酒だ~!』とか言って、兵舎に戻ったあとも狂ったみたいに飲み続けてるんだよ」
そして、再びぶっ倒れると。
何ですか地獄絵図。
パーティー会場でのイメージそのままで、光景が目に浮かぶようです。
それにしても、二日酔いに癒しの魔法が効くなんて初耳です。
出来ることなら、昨日のうちに知りたかったですよ。
『馬鹿みたいな理由だけど。
ブヒータは、あれでも魔王城の陸軍を束ねる役割も担ってるからね。
早く元気になって貰わないと困るんだ』
頼み辛そうにおずおずと言うアビーに
「私の癒しの力が、どの程度の効力を持つかは分かりませんが……。
私にできることなら試させてください」
そう答えました。
二日酔いの辛さはよく分かりますからね……。




