24. 魔王様がいらっしゃいました
その後しばらくは、アビーを抱いたままベッドに横になっていました。
どれぐらい経ったのでしょう。
一眠りしてしまったようです。
あれほど酷かった頭痛が、だいぶ治りつつあります。
そんな中、リリーネさんが再度部屋にやって来ました。
「魔王様がいらっしゃいました。入っていただいても、大丈夫でしょうか?」
そうリリーネさんが確認してきました。
「え、ヴァルフレア様が。
さすがにこのまま会うのはまずいですよね?」
「いいえ、そこまで改まらないでも大丈夫ですよ。
魔王様も、フィーネ様の状態はよくご存知のはずですから」
大慌ての私に、リリーネさんはそう答えました。
なるほど……すごく恥ずかしいです。
「何の用なんでしょう。
もちろん、入っていただいても大丈夫です」
私は、不安に思いながらもそう答えました。
居候の身ですからね。断れる立場にありません。
◇◆◇◆◇
「それでは、私はこれで」
ヴァルフレア様を部屋に入れると、一礼と共に立ち去ろうとするリリーネさん。
「ま、待って……」
「ま、待つのだリリーネよ。余を1人にしようというのか?」
そんな有能侍女を呼び止めようとする者がいました。
とっさに腕を掴んだ私と、慌てた様子の魔王様です。
「は、はあ……」
戸惑った様子のリリーネさん。
「私がここにいても、どう考えてもお邪魔ですよね。
このまま、2人で友好を深めるのがよろしいのでは?」
昨日はパーティーという特別な場だったからこそ、辛うじて話せただけです。
二日酔いなんて失態を犯したあとに二人きりは、ハードル高いですよ!?
ぶんぶんと首を横に振り、私もガッツリとリリーネさんの腕をホールド。
「うむ。同郷のものが居たほうがフィーネ嬢も落ち着くだろう。
リリーネ、貴様もここに残るが良い」
ありがたい提案です。
「心遣い感謝します」
魔王様に向き直りお礼を言うと、またしてもサッとすごい勢いで顔を逸らされました。
歓迎パーティーでのやりとりの再現のようです。
どうしたというのでしょう。
◇◆◇◆◇
「ヴァルフレア様、申し訳ありません。
こんな姿をお見せすることになってしまって、情けない限りです」
歓迎パーティーで羽目を外して、酔いつぶれてそのまま二日酔いで倒れるなんて……。
自身の迂闊さを呪います。
「なに、ここまで含めて歓迎パーティーだ。何も問題ない」
「でも……」
「問題ないと言っている。
そんなことよりも、体調は大丈夫なのか?」
顔を背けたままですが、ヴァルフレア様から帰ってきたのはこちらを気遣うそんな言葉。
ええっと、これは心配されているのでしょうか?
「情けないですが、ただの二日酔いですから。
もう少し休めば良くなると思います」
「ブヒータたちは、この世の終わりのような顔で呻いているではないか。
『二日酔い』というのは恐ろしいものなのだろう。
本当に、なんともないのか?」
そう言いながら、ようやくヴァルフレア様はこちらに顔を向けました。
冷たい印象を与える目ですが、よくよく見ると気遣わしげな表情を浮かべています。
「はい、朝と比べると良くなりました」
オークの兵士が詰める兵舎は、随分とひどいことになっているそうで。
今朝、そのことを話すリリーネさんが、恐ろしい顔をしていたのは印象的でした。
「それは良かった。大事無いなら何よりだ……」
「ご迷惑をおかけしました……」
こちらを気遣う様子を見せるヴァルフレア様。
私は、ただただ申し訳なく思うばかり。
彼が何を考えてここを訪れたのかは分かりません。
それでも、こうして心配をかけてしまったのは事実です。
魔王様はこう続けました。
「余が開いた歓迎パーティーは。
結局は、大事な恩人を苦しめるだけだったのかと。
余計なことをしてしまったのかと、後悔していた」
歓迎パーティーを開いてくれた魔王様。
感謝こそすれど「苦しめた」などと思われるのは不本意です。




