23. これはただの二日酔いだと思います……
太陽がまぶしいです。
それに、頭がクラクラします。
世界が私を中心に回転しているよう。
ここはどこでしょう?
『ひめさま、大丈夫?』
「あ、アビー。頭がガンガンします。
耳元で騒がないで……」
どうやら私は、アビーを抱きかかえたまま眠ってしまったようです。
私が目を覚ましたのを確認すると、するっと起き上がりました。
見覚えのない部屋の模様。
私が寝かされていたのは、3人は同時に眠れそうな立派なベッドでした。
部屋に飾られているインテリアにも、シャンデリアにも見覚えがありません。
昨日は、魔王城での歓迎会で。
様々な魔族に圧倒されつつも、ついつい楽しくなってしまって。
お酒、普段では考えられないぐらいに飲みましたね。
気も抜けていました。
二日酔い。そして、見慣れぬ部屋での目覚め。
これはもしかして……そういうこと?
なんという失態を……。
さっと青ざめました。
「フィーネ様、お目覚めですか? リリーネです。
入ってもよろしいですか?」
「昨日はごめんなさい。大丈夫です」
部屋の入口から控えめなノックの音。
慌てて起き上がろうとすると、頭に鈍く響く痛みが襲ってきました。
「水をお持ちしました。
昨日1日で魔族領を横断して魔王城まで。その上で、あのバカ騒ぎですからね……。
体調を崩されるのも無理ないです」
『ひめさま、無理しないでゆっくり休んでて。
疲れが出たんだよ』
昨日の歓迎会から引き続き、いろいろお手数おかけします。
そして、ごめんなさい。
これはただの二日酔いだと思います……。
でもお言葉に甘えて。
そっと私は横になりました。
「フィーネ様、お加減はどうですか?」
「ごめんなさい。こんな初日から……」
今日から魔王城での生活が、本格的にスタートします。
リリーネさんを手伝うにせよ、他の役割を割り振られるにせよ。
よりにもよって、二日酔いでぶっ倒れているわけにはいかないのですが……。
「フィーネ様は何も悪くありません、旅の疲れもあるのでしょう。
あんなお祭り騒ぎを企画した魔王様が悪いんです。
せめて、旅の疲れを癒してからにしようと何度も言ったのですが……」
心配そうなリリーネさん。
これは、ただの二日酔いですとは言いだしづらい雰囲気ですね……。
横になったまま見上げると、リリーネさんはこう続けました。
「それに倒れているのはフィーネ様だけではありません。
昨日の歓迎会で羽目を外した組は、軒並みぶっ倒れてます。
心配しないでください、二日酔いでぶっ倒れるところまで込みでお祭りですから」
ニッコリと、あまり笑っていない目でリリーネさん。
二日酔いなのはバレてるんですね……。
話を聞くと、特に暴飲暴食を極めたオークの集団がやばいそうで。
ガハハハと笑うブヒータさんの顔が、なぜか脳裏をよぎりました。
なるほど、あれと同レベルの行動をしてしまったのね……。
元・公爵令嬢、の肩書きが泣いています。
「あまりにも美味しそうに飲むので、ついつい渡し過ぎました。
フィーネ様は、お酒には強いのかと思っていました」
「う……ごめんなさい」
これまで生きてきて、意識を失うレベルで酔った記憶はありませんでした。
貴族同士のパーティーでは、決して弱みを見せるわけにはいきませんから。
表面上はにこやかに、心の中ではいつでも相手を蹴落とす隙を伺って。
そんな空間で、無様な姿を晒すわけにはいきませんからね。
魔王城での歓迎会は、そんな緊張感とは無縁の場所でした。
気が緩んでしまったのですね。
だからといって、魔族領のど真ん中で酔いつぶれるなんて……。
無警戒にもほどがあります、一生の不覚です。
『そんなに気を遣わないで。
ひめさまは、ここで好きなことをして生きていけばよいよ。
それをサポートするために、ぼくたちは魔王城に勤めてるんだから』
私には、アビーがここまで優しい理由が分かりませんでした。
アビーだけでなくリリーネさんも。
「なら軽くもふらせて。抱っこさせて……」
両腕を上げ、そんな言葉をうわ言のようにつぶやく私。
アビーがピョンと私の腕の中に飛び込んできました。




