21. 果たして人間が食べても大丈夫なものなのでしょうか?
「これだけ盛大なパーティーが開かれるのは、久々なんだ!
ひめさまには本当に感謝してるんだぜ!」
料理を手に持ったオークが、集団を抜けてこちらにやってくると、
「俺の一押しはな、特産品のバチバチシイタケだぜ!」
何やら怪しげな色をした、毒々しい色をしたキノコが入った皿を差し出してきました。
こうして無遠慮に話しかけてくる者がいるあたり、今まで国で経験してきた「貴族のパーティー」とは何もかもが違います。
――これ、食べないと失礼になるのかな?
不気味な色合いのキノコ。
バチバチという名前も不穏なのですが、果たして人間が食べても大丈夫なものなのでしょうか?
チラッと助けを求めるように魔王様に視線を送ります。
「魔族領の特産品だ。非常に美味だぞ」
魔王様、嬉しそうにオークから料理を受け取るとパクリと口に運びました。
見ていると幸せそうな表情を浮かべていました。
それを見ているオークたちも幸せそうで。
――ああ、本当に慕われているんだな
魔族たちの中心に居るのが、自然な風景に見えます。
私も……魔族たちと友好を結ばないといけません。
親切で差し出してくれた料理を断るのは、あまり得策とは言えないでしょう。
あまり食べたくない色合いをしていますが。
ええい、ままよ!
「ありがとうございます! いただき――」
「フィーネ様ダメ~~!」
リリーネさんカットイン。
受け取ったお皿を取り上げると、オークに突っ返しました。
「ブヒータ! それ人間にとっては毒だって、何回も言っただろう!?
うわ、くっさ……。主役が来る前に、どんだけ飲んだんだい!」
「たかだか樽ビールを開けただけだよ!
オークを束ねるこのブヒータ、これぐらいでは飲んだには入りませんぞ~!」
「うっさいよ!
みんな気を使って、2人っきりにしてたのが分からなかったのかい!」
あ、リリーネさんいつまで経っても戻ってこないと思ったら。
そういうことだったんですね!?
もし、気まずい沈黙が戻ってきたらどうするつもりだったんでしょう。
「固いこというなよ~?
パーティーはみんなで楽しんでこそだろうがよ~~」
そして、このブヒータとかいうオーク。
完全にでき上がっています。絡み方が酔っ払いのそれです。
「ほ~ら、酔っ払いは戻った戻った!」
しかし、そこは玄人のリリーネさん。酔っ払いもなんのその。
シッシっとオークの集団を追い払ってしまいました。
流石です。
「魔王様も魔王様です!
そのキノコは人間には毒です!
フィーネちゃんは詳しくないんだから、魔王様が止めてあげないでどうするんですか!」
「うっ、面目ない」
腰に手を当ててリリーネさん。
矛先が、魔王様に向きます。しゅんとしてしまった魔王様。
残念ながら、これは私にも擁護できません。
魔族には美味しいキノコも、人間には毒。恐ろしい話です。
「フィーネ様。お疲れでしたらこのまま寝室に案内しますが――」
「いいえ。せっかく、こうして歓迎パーティーを開いていただいたんです。
ここで戻ったら盛り下がってしまうでしょう」
会場の楽しそうな空気を、壊したくはありません。
それに――
「せっかくの歓迎会ですからね。精一杯楽しまないと損です」
まだまだ楽しみ足りない、というのも本心でした。
魔王様の企画したこのパーティーは、貴族同士での腹の探り合いとは違い、本心から笑顔が飛び交っている幸せな場でしたからね。
「余は、一足先に部屋に戻るとしよう。
余が独占していては、他の魔族がフィーネ嬢に話しかけられないしな。
フィーネ嬢は、パーティーを存分に楽しむが良い」
もともと、騒がしい場所は苦手だと何度も言っていた魔王様。
残念ですが仕方ないですね。
リリーネさんも「魔王様にしては頑張りました……」なんて反応で。
「ヴァルフレア様、今日はありがとうございました。
また明日、ゆっくりお話できるのを楽しみにしています」
「ああ。今日は楽しかった」
口数が少ない方ではありますが、その分お世辞なども言わないお方だと思います。
なので、楽しかったという言葉はきっと本心。
都合の良い思い込みかもしれませんが、そう思うことにしました。
今までは、魔王様に遠慮していたのでしょうか。
飲み物を手に会場の隅っこに寄った私ですが、やっぱり魔族一同は興味津々だったのでしょうか。
次々と見慣れない魔族が、私に声をかけてきました。




