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20. そんなことは望みません!

「ここを動かないで下さいね?

 魔王様、フィーネちゃんをしっかり守ってくださいね」


 そう言いながらリリーネさんが飲み物を取りに行きました。

 このままでは、気まずい沈黙の再来です。


「それにしても、魔族領がこんな場所だったなんて。

 魔王城でこんなパーティーが開かれているなんて、想像もしませんでした」

「予想されていたら、サプライズにならないからな」

「それもそうですね……」


 サプライズ、ですか。


「私が魔族領に追放されると決まったのは、本当に突然でした。

 アビーたちが、迎えてくれたのも今思えばタイミングが良すぎです。

 これほどのパーティー、よく準備出来ましたね」


 それは、ちょっとした疑問。

 あまりにタイミングが良すぎた気がしました。


「ふっ、あの国の内部には余の配下が入り込んでいる。

 その程度の情報、いくらでも知ることができる」


 え、何それ怖い。

 結界は、聖属性を持たぬ魔族には無効とアビーさんが言っていましたね。

 これからは魔族領で生きていくことになりますし、心強いと思うべきなのでしょうか。


「な、なんでスパイを送ったりなんかしたんですか?

 人間の国を滅ぼすつもりなんですか?」

「それがフィーネ嬢の望みなら」

「そ、そんなことは望みません!」

「そうか……」


 なんで少しだけ残念そうなんですかね!?

 やっぱり魔王様のことは、よく分かりません。


「フィーネ嬢は優しいのだな」

「何がですか?」

「あんな目に遭わされて。さんざんコケにされたんだ。

 王子とあの女に、復讐したいとは思わないのか?」

「ああ、そういうことですか……」


 私は、少しだけ考えてゆっくりと言葉を吐き出します。


「順当に王妃になって一生を終えるよりも、ここに来られて良かったと思ってます。

 あの国に住んでいる人には絶対にできない経験ですから」

「それでも、あの国がフィーネ嬢にしたことは無くならん」


「ヴァルフレア様? 誰かを恨み続けるというのは、エネルギーを使うものです。

 私が、優しいというわけではありません。

 あの馬鹿王子たちに、これ以上振り回されたくないだけです」


 ――せっかく解放されたんですから

 

 そんなことにエネルギーを使うより、私は前を向いて進んでいきたい。

 ここで魔王様や魔族と仲良くなりたいし、アビーを毎日もふもふしたい。




◇◆◇◆◇

 

「それにしてもヴァルフレア様は、魔族たちに慕われているんですね。

 私のような見ず知らずの人間の歓迎会のために、こんなにも多くの魔族が協力してくれているんですから」


 もっともバカ騒ぎが好きなだけ、という可能性もありますけどね。

 会場内は、一応主役であるはずの私を抜きに、大きな盛り上がりを見せていました。


 大柄のオーク2匹が、酒瓶を片手に何やら言い合い!

 煽るように、周囲を魔族が取り囲んでいます。

 飲み比べでも始まるのでしょうか? 


 酔っ払いの厄介さは、どこも変わらないんですね……。

 遠い目になりながら、そっと視線を戻すと


「やはり、ここで話しているよりもパーティーを満喫させるべきだったか。

 余のせいだ。気を遣わせてしまったな……」


 ヴァルフレア様は、申し訳なさそうな表情でそう言いました。

 いやいや、何をおっしゃいます!?

 オークの飲み比べに巻き込まれるとか地獄絵図ですからね!?

 

 ここにいる方が、間違いなくパーティーを楽しめてます!


「そんなことをおっしゃらないでください。

 こうして歓迎パーティーをヴァルフレア様と過ごせて、とても嬉しいです」


 これは本心でした。

 他人からの視線を気にする必要もなく。

 それどころか、外面を取り繕うことを止めて欲しいとすら言われた空間。

 このパーティー会場は、これまでになかった特別な場所のように感じられました。


「ヴァルフレア様は、私とこうして話しているのは退屈ですか?」

「待ちわびた。夢のような時間だ」

「え?」


「こほん、何でもないぞ。

 退屈ではない。

 人間との会話、非常に貴重な経験だ」


 え、今なんと……?

 聞き間違いでしょうか。

 そして、速攻で言い直しました魔王様。


 

 そんな会話をしながらリリーネさんを待っていると、なにやらこちらにやってくる魔族の集団が視界に入りました。

 先頭には、酔いが回った様子で陽気な表情を浮かべたオーク。

 なにやら料理がこってりと盛られた大皿を抱えています。


 ――うわ、面倒そうなのが来た……

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― 新着の感想 ―
[良い点]  フィーネさんの考え方が心に染みます! 前向きでいて、本当に優しい女性なんですね! 魔族の人から気に入られる理由がもう、凄い位に伝わってきます!
[良い点] もう読み終わってしまった・・・。 はよはよ!!(ノシ ‘ω’)ノシ バンバン
2020/05/22 16:41 退会済み
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