表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

19/72

19. 会場はすっかりお祭りムード

「はい?」


 ドレス選びのセンスを褒められたのでしょうか?

 予想もしていなかった突然のひと言。

 不意打ちを喰らった私は、きょとんと聞き返しました。

 

「うむ。余の城にあるのは、一級品のドレスばかりだ。

 遠慮なく使うが良い」


 一方の魔王様は、満足気にそう答えると。

 スタスタと歩き去ろうとしているではありませんか!


「魔王様、こんな会場でフィーネちゃんをおひとりにするつもりですか?

 傍にいてあげなさいよ~」

「む、無茶を言うでない。

 余が、初対面の人間を気遣えるほど、器用ではないのは知っておるだろう?

 それにフィーネ嬢も、貴様といた方が楽しかろう?」


 またしても、リリーネさんと魔王様が何やらコソコソと話しています。


 人には聞かせられない話なのでしょう。

 おふたりの信頼関係が少しだけ羨ましいです。




◇◆◇◆◇ 


 私の隣には、やはり表情の読めないヴァルフレア様。

 う、沈黙が痛いです。


 そんな気まずい空間を打ち破ったのは、ちょこちょこっとやって来た癒しの猫。

 もふもふのアビーさん!


『ひめさま、楽しんでる?

 このパーティーはひめさまが主役なんだ。

 今までのことは全て忘れてさ、楽しんじゃおうよ』


 今までのことは全て忘れて、ですか。

 私の脳裏をよぎったのは、今日突きつけられた婚約破棄でした。

 魔族領への追放は、間違いなく私を殺すつもりの一手でした。

 

「ありがとうございます。アビーにヴァルフレア様。

 このような素敵な歓迎パーティーを開いていただいて、本当に感謝しています」


 ……ええ、そんなことは忘れてしまうに限ります。

 ここでの出会いに感謝を、今を楽しみましょう。

 これからは、ここで暮らしていくんです。 


『お堅いよ~!

 魔王様だってそう思うよね?』

「ああ。(つくろ)ったようなその笑み、好きではない。

 ここでは人間の貴族爵位など意味を持たぬ。

 貴族としての外聞も捨て去るが良い」


 そう言われた私は、回りを見渡します。

 歓迎パーティに集まった魔族たちは、みな笑顔です。

 しがらみも何も無く、あるのは刹那のお祭りを楽しむ喜びだけ。


 これまで貴族令嬢として育てられてきた私には、真似たくても真似られない生き方。

 ……難しいことをおっしゃいます。


 ――それでも、そこまで言うのなら


 この場を、無邪気に楽しむ努力をしてみましょう。


「リリーネさん。一杯、強めのやつ貰えますか?」

「フィーネ様は、お酒も嗜まれるので?」

「お酒は好きです。今日は、遠慮しないことにしました」


 にっこりと微笑みます。 


「分かりました。それでは、魔王様は何になさいますか?」

「い、いや。余はそろそろ戻ろうかと……」


 断ろうとするヴァルフレア様に、リリーネさんが素早く駆け寄り説得。


「このタイミングで帰って、フィーネちゃんを1人にするとか有り得ないですから!

 パーティーを企画したなら、楽しめるよう最後まで気配りするものです!」

「あ、あの。私なら大丈夫ですよ?」


 騒がしい場は好まない、と仰っていましたからね。

 冷たい印象を与えるけれど、思いやりに溢れた優しい魔王様。

 できればもっと話がしたいです。

 せっかくのパーティー、一緒に過ごしたいと思います。


 だとしても、歓迎パーティという大げさなもてなしを受けた身で。

 これ以上のわがままを言うわけにはいきません。 


「リリーネ、今日の貴様は活き活きと無茶ぶりをするな?」

「……無茶ぶりと受け取られるのが心外ですよ」


 ――いいえ、違いますね


 今日は、この場を無邪気に楽しむとさっき決めたではありませんか。




「ヴァルフレア様、一杯ご一緒願えませんか?」


 これは、ちょっとしたわがまま。


「……ああ、付き合おう」


 魔王様の返事は、変わらぬ口調でのひと言でしたが。

 私の勘違いでなければ、小さく微笑みを浮かべたのでした。

評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
[良い点] うっひょおぉぉぉぉぉ!! 魔王デレたァァァァ!!(表面的に)
2020/05/22 16:39 退会済み
管理
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ