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15. これだけのドレスを良く集めましたね……

 まずは大浴場へ。

 お風呂を上がり次第、息つく間もなくドレスルームへ連行。

 リリーネさんに連れられてドレスルームに入った私は、


「わあ」


 思わず驚きの声を上げました。

 そこは、色とりどりのドレスがかけられた空間でした。


 公爵家の品揃えにもまるで見劣りしません。

 それどころか、その何倍もの量が用意されているように見えます。


 当たり前のように受け入れましたが……。

 なぜ人間向けのドレスルームが、魔王城の中にあるのでしょう?


「リリーネさん、実はかなり良い家の出身なんですか?」


 心当たりがあるとしたら、長年住んでいそうなリリーネさんでしょうか。


「私は、しがない貧乏貴族の末娘ですよ。

 こんな煌びやかなドレス、とても着こなせません」


 なら……。

 このドレスたちはなに?


「えっと……。

 魔王城には、私たちのほかにも人間がたくさん住んでいるんですか?」

「ええ。魔王様が保護した人が住んでるわ。

 でもこのドレスは、魔王様がフィーネ様のために用意したものですよ」


 ええ!?

 それは、想像の斜め上の答えです。


「ど、どうして……?」

「ふふ。それは、私の口からは言えません」


 直接聞いてみれば良いのでは? と、リリーネさんは楽しそうに答えました。

 なんて恐ろしいことを提案するんでしょう。


「ま、魔王がどのようなドレスを好むか分かりますか?」

「何を選んでも、喜ぶと思いますよ」

「そ、そうですか……」


 なんでしょう、このドレス選びを通じて何かを試されているのでしょうか。

 私は、おっかなびっくりとドレスを選び始めました。


 どのドレスも、ひとめ見て高級品だと分かります。

 腕の確かな職人の手により丁寧に仕上げられたもの。


「……これにします」


 魔王の意図がまるで分からず。

 結局、私が選んだのは黒寄りの落ち着いた雰囲気を持つドレス。


 華やかなドレスというのは、それだけ印象を残しやすいものです。

 色合いによっては相手に攻撃的な印象すら持たせてしまう、厄介な代物なのです。


 ――私は、あなたに敵対する意識はありませんよ!

 ――どこにでもいる、ただの貴族令嬢ですよ!


 何事もなく、無難に魔王との接触を乗り切れれば。

 うまくいけば魔王城の侍女として働かせて貰えるかもしれません。

 リリーネさんという前例もありますからね。


 魔王城。

 働き先としては不安が残りますが、魔族領を彷徨うよりは遥かにマシです。




「それにしますか?」

「ええ。それにしても、これだけのドレスを良く集めましたね……」


 私は頷きました。

 魔王の考えが分からない以上は、相手の好みに合わせるという基本的な選び方もできません。

 生まれてからずっと世話をしてくれた、公爵家のメイドたちのセンスを信じましょう。


 このドレスを選んだのには、もう1つの目的があります。

 できる限り魔王の印象に残らないこと!

 魔族領に入るなりアビーが派遣されたことからも、ずいぶんと目を付けられているようですが……。


「もうじき、フィーネ様が来ると!

 魔王様、張り切って準備してましたからね」


 どういうことなの!?

 なんで魔王なんて縁もゆかりもない魔族が、私のためにドレスを用意しているの!?

 私のこれまでの人生、魔王と接点なんてないんですけどね!?


 アビーさんたちとは、たしかに友好を築けたのです。

 魔王が相手でも、きっと……。


「では、さっそく向かいましょう。

 魔王様にそのお姿を、早く見せてあげてください!」


 リリーネさんは選んだドレスを手に取ると、そのまま私を着換え室へと案内しました。

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― 新着の感想 ―
[良い点]  やはりカーくんやアビーさんの個性がとがっていて笑わせていただくところもたくさんあって、しっかり楽しませていただきました。 [気になる点]  ここ数話、ずっと魔王様の登場まだかなまだかなと…
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