14. まあ、人間が魔王城に!?
それにしても、魔王城に入った人間なんて私が初めてかもしれませんね。
キョロキョロと辺りを見渡します。
外から見たときは、おどろおどろしい風貌しか印象にありませんでしたが。
こうして見ていると、中身はしっかりと手入れされた小奇麗な建物です。
時々飾ってある魔族をかたどったインテリアが、良いアクセントになっています。
「改めて、侍女頭のリリーネです。
フィーネ様と同じく人間です。きっと、少しはあなたの心労を理解できると思います」
「まあ、人間が魔王城に!?」
ものすごく気が抜けました。
こんなところで、人間と会えるとは思ってもいませんでした。
『魔王様に拾われたんですよ。
前の職場で、人身売買の取引現場を見てしまいまして』
口封じに魔族領に放逐されたんです、とリリーネは笑ってみせました。
使用人の失踪は、きな臭い貴族の屋敷では珍しくはなんともないですが……。
「あなたも、苦労されたんですね……」
「ボンクラ王子を裏で支えた挙句、魔族領に放り出されるフィーネ様ほどじゃないわよ」
魔族の支配する土地で出会えた、私と同じ人間族。
肩の力を抜いて話せます、心強いです。
「あら、フォード王子はこの地でも有名なんですか?」
「ひめさまに迷惑をかけまくってるって悪評でね。
アビーなんて、いつも文句言ってるわよ」
ひめさま~! とじゃれついてくる猫の姿を思い出し、頬が緩みました。
彼も、この地で出会えた貴重な友人です。
それにしても……。
ひめさまに迷惑をかけまくってるって悪評ですか……。
国の情報、筒抜けじゃないですか。
改めて魔族怖い。
「フィーネさん、ごめんなさいね。
人間にとって住みやすい場所ではないと思うけど……」
申し訳なさそうに、おずおずとリリーネさんが話しかけてきました。
「いえいえ。魔族領に追放されて、死ぬしかなかったんです。
ここまで連れてきてもらえて感謝してますよ」
私の立場で、文句を言うことなど許されないでしょう。
生きているだけで感謝です。
たしかに入口ではだいぶ驚かされましたが、そんなことは些細な問題です。
これ以上、心臓に悪い魔族がいないと良いな……。
「まずは大浴場でゆっくり休んでくださいね。
長旅の後だしね。体を休めるのも大切だよ」
「有り難いんですけど、良いんですか?
魔王様が私に会いたがってるって、だいぶ急いで連れてこられたんですが……」
「気にしない。気にしない。
細かなことを気にしてると、ここでは体がもたないわよ」
ずいぶんと実感のこもった言葉です。
リリーネさんも随分と苦労したんだろうな……。
人ごとながら、同情しそうになります。
――全然人ごとじゃないですね……




