12. 心から誰かを信じるのは難しいことです
「それでヴィル、私はこの後どうすれば良いですか?」
気を取り直して。
私は、ヴィルと名乗った案内役のゾンビに尋ねました。
「魔王様は、メインホールでお待ちです。着いてきてもらえますか?」
『ひめさまは、長旅で疲れてると思うから!
一度、お風呂にでも入ってもらって。
用意したドレスに着替えてもらった方が良いんじゃないかな?』
気が利かないねー、と割り込むように返事をしたのはアビー。
「あ、お構いなく……」
『ひめさまは魔王様の大事なお客様なの!
そういうわけにもいかないよ』
とっさに出た遠慮の言葉を、アビーはシャットアウト。
ここまで言われては、はい……と頷くしかありませんでした。
「すいませんな、ひめさま。
こう見えてゾンビ歴が長いもので。
すっかり人間だったころの感覚を忘れてしまいまして……」
「は、はぁ……」
それにしても、ずいぶんと丁寧に扱われるんですね。
魔族領に追放されたときは、このまま野垂れ死ぬしかないと思っていました。
そのときからは、考えられない扱いです。
それにしても、ヴィルの言葉。
ゾンビってもとは人間だったのかしら……?
謝るヴィルを見ながら、私はそんなことを考えます。
――はっ
青ざめました。
もしかして、人間界を襲うために、ゾンビ兵を補充しようとしているとか。
その素体として、聖属性の魔力を持つ私は都合が良いとか?
だからこんなに丁重に扱われている?
そんな恐ろしい想像に行き当たっていたとき……
『ひめさまが、何考えてるかは分からないけど……。
また僕たちに怯えてるときの癖。
目線が泳ぐから分かりやすい』
――もう少しぼくたちのことを信じて欲しいな
アビーの真摯な声。
『ひめさまは、ぼくの命の恩人なんだよ。
絶対に悪いようにはしないってことは、信じて欲しい』
そう……ですか。
勝手に怯えてる、勝手に疑って。
親切を素直に信じられず。
情けないと、申し訳ないとは思います。
「ごめんなさい」
『謝って欲しいわけじゃないよ』
アビーが諭すように答えます。
カァ、とカーくんの同意するような鳴き声。
人間相手であっても、心から誰かを信じるのは難しいことです。
まして、魔族領への追放なんて目にあってしまった直後です。
魔族を恐れる心は、消えてはくれません。
仕方ないと思ってしまいます。
見た目も生き方も、何から何までが違うのですから。
「ありがとうございます、アビー」
だとしても……。
もし心の底から誰かを信じられる日が来るのなら。
それは、素敵なことではありませんか?
いつか、そんな日が来ると良い。
私は、ふんわりと笑みを浮かべてみせました。




