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三人称「奇襲」

 リンテの入った棺桶が、大聖堂を出発した。


 棺桶には空気穴があいており、中にいるリンテが窒息で死ぬ事はないが、狭くて息苦しいのに変わりはなく、呪縛からの痛みもあり、リンテはその苦痛に小さく声を漏らしていた。


 大声をあげれば棺桶を運ぶ者達の迷惑になってしまう。なるべく息を潜め、迷惑にならないように振る舞うのは地下に幽閉されていた3年間でリンテが得意になった事の1つだった。


 棺桶は港から船に乗って、沖まで運ばれる。海底に大きな溝があいており、そこに錘をつけた棺を投げ込めば、浮かび上がって来る事もなく、リンテが死んだ後も呪いは永遠に海の底に留まり続ける。

 船が出る港町までは、王都から約半日の道のり。途中で人気の少ない街道を通る事になるが、金目の物がある訳ではないので、護衛も最小限。

 それがまずかった。


 山賊の祝福

 「鷹の目」 コスト:2

 5kmまで先の物をはっきり見る事が出来る。


「兄貴、王都の方角から馬車が来ています。装飾付き、護衛は騎士2人」

「何を積んでるか分かるか?」

「あの馬車の装飾はおそらく……棺桶ですね」

「死体なんていらねえよな、兄貴」

「……いや、わざわざ馬車に乗せて王都から運び出すって事は、金持ちの死体の可能性が高い」

「って事は、宝石の1つや2つ持たせているかもな」

「騎士の装備も奪っちまえる。御者は何人だ?」

「1人っすね。馬車の跳ねる感じからして、馬車の中に人間はいやせん」

「3人殺して採算が取れるかどうかは微妙な所だが、まあ、襲ってみるか。おい、ラル」

「は、はい」

「行け。いつもの奴だ」


 リンテを乗せた馬車の前に、1人の少年が横たわっていた。

「止まれ。子供が倒れている」

 馬車を護送する騎士の1人が、御者に向けてそう言った。

 御者はそれに反対する。

「騎士様、これは山賊どものやり方です。このまま轢き殺しましょう」

 騎士は少し考えた後、答えた。

「いや、この子供は『中立』だ。馬車を止めろ」


 騎士Aの祝福

 『善悪判断』 コスト:1

 目の前の人間が、自身に対して「善意」か「悪意」か「中立」かを判断出来る。


 このスキルは裏切り者を見破り、相手の真意を測る非常に便利なスキルだったが、これが仇となった。


「おいそこの子供、どうした?」

 馬車を止め、騎士が少年を起こした。少年は目を瞑っており、意識を失っているようだった。

「……待て。誰か来る。構えろ! まずい!」

 馬車の背後から山賊達が襲いかかる。


 山賊Aの祝福

 『斧術』 コスト:1

 斧の扱いに長ける。


 騎士Bの祝福

 『デュポン式槍術』 コスト:2

 槍を自由自在に扱える。


 山賊Bの祝福

 『雄叫び』 コスト:1

 その場にいる味方全員の筋力を一時的に増強する。


 騎士Aの祝福

 『盾術』 コスト:1

 盾の扱いに長ける。


 御者の祝福

 『馬術』 コスト:1

 馬との意思疎通が可能になる。


 山賊Cの祝福

 『野生の恫喝』 コスト:2

 動物を一時的にその場に金縛りにする。


 しばらくの間、鉄と鉄のぶつかり合う音が聞こえた。単体の戦闘力では騎士に分があるものの、人数は山賊の方が多く、やがて限界は訪れた。御者は馬に逃げるように命じたが、運が悪い事にこの山賊は行商人を襲うのを専門としており、その対策はキッチリしていた。馬を止められれば何も出来ず、5分後、そこには死体が3つ並んでいた。


「ずらかるぞ!」

「おう!」

「何してんだラル。早く来い!」

「は、はい!」


 道で倒れていた少年の名前はラル。捨て子であり、今は山賊に面倒を見てもらっていたが、『善悪判断』で彼が「中立」だったのは、山賊は決してラルを仲間だと思っている訳ではなく、ラルもそれに気付いていたからだった。


 リンテの入った棺桶が山賊の手によってアジトまで運ばれた。


「さあ、ご開帳だ」

「へっへっへ、どんなお宝が入ってんのかねえ?」


 棺桶の釘を抜き終わり、蓋が開く。それを見守る7人の山賊とラル。


 当然、中にいたのは薄布1枚を身に纏ったリンテだった。


「ちっ、ハズレか……」

「宝石の1つも無いなんて、こいつは金持ちじゃねえのか?」

「……いや待て。この女……生きてねえか?」


 全員が息を潜めて見守っていると、リンテの胸が僅かながら上下に動いていた。


「おいおい嘘だろ。何で生きている人間が棺桶に入ってんだ?」

「知るか。それより金目の物がねえのが問題だ」

「いや待て。この女、器量は良い」

「ああ、その通りだ。こりゃ奴隷として売れるぞ」

「なるほど、その手があったな」


 勝手な話をする山賊達。その会話はリンテにも聞こえていたが、呪縛によって視力を失っているリンテに、山賊達の姿は見えていなかった。ただ聞こえてきた情報から、何か不測の事態が起こったのは間違いなかった。


「おい女、起きてるんだろ? 何か言え」

「わ、私をここで殺さないで下さい」

 絞り出すようにリンテがそう言うと、山賊達は下卑た笑いを浮かべて言った。

「大人しくしてりゃ殺しはしねえよ」

「それにしても美しい女だ。……ちょっとだけつまみ喰いしてもいいよな?」

 山賊の頭は少し考えた後、露になったリンテのふとももを見て舌舐めずりした。

「それもそうだ。ただ壊しちまわねえように1人1回ずつといこう」

 山賊の男達が歓喜の声を上げた。


 リンテは、これから男達が自分に何をしようとしているのか理解していなかった。

 ただ、ここで殺される訳にはいかなかった。

 呪縛を持ったまま死ねば、自身にかけられた呪縛が解き放たれて彼らに迷惑をかける事になる。これだけ絶望的な状況下において、リンテはそれだけを心配していた。

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