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三人称「体質」

 祝福アレルギー。


 祝福に対して本人の意思とは関係なく肉体が拒絶反応を起こす病。

 卵や小麦、甲殻類などを受け付けない人間がいるのと同じように、祝福を受けると激しく嘔吐したり、熱を出したり、全身にぶつぶつが出来たりする。更に祝福アレルギーは、その受けた祝福まで消滅してしまうという性質を持っており、原因は分かっていない。


 発症は極稀で、一説には100万人に1人と言われている。過去にいた祝福アレルギー患者にこれといった共通点はなく、器数も1から5までと様々だった。


 ほとんどの職業が祝福スキルを前提としてよって成り立っているこの世界において、全く祝福を受けられない人間の形見は非常に狭い。これまた稀に存在する器数0の人間と同じく、端的に言えば完全なる「無能」として扱われる事になり、場合によっては奴隷としてすら値がつかない程に軽んじられる。


 器数20として生まれ、12歳の誕生日に祝福アレルギーである事が発覚したリンテを待っていたのは、これまでとは真逆の生活だった。


 まずは2階の自室は取り上げられ、地下で暮らす事を半ば強制させられた。

 外出をするのにはグレイシア家当主であるオズマの許可が必要であり、どんな用事があっても許可が降りる事はない。オズマはリンテに「お前を守る為だ」と説明したが、その実人目を避けて周囲に忘れられる為だった。証拠に、翌年に撮影した家族写真にリンテの姿はない。


 当然、使用人による世話もなくなった。窓がなく、薄暗い部屋の中、1本の蝋燭を少しずつ使いながら過ごす日々が3年間。与えられる食事も残飯やカビの生え始めたを中心とした粗末な物であり、食事を運ぶ係のメリーが熱を出して倒れた日にはそのまま忘れられる事もあった。


 週に1回だけ10分間の湯浴みが許可されたが、牢を出る際も誰かと言葉を交わすのは禁じられていた。栄養が足らずに倒れた時は、メリーが秘密で自分の食事を分けて何とか命を繋いだ。地下での3年間、リンテは徹底的に迫害され、無視され続けた。


 グレイシア家の誇りだったリンテはもうどこにもいない。両親は彼女の事を恥ずかしく、疎ましく思った。にも関わらず、リンテはそれを受け入れた。


 期待が大きかった分、失望も大きかった。

 家族にとってはリンテの存在など最初から無かった事にしたかった。


「申し訳ありません。お父様、お母様、お兄様」

 夜眠る前、リンテは兄からもらったペンダントを握り、何度もそう呟く。自身にかけられていた期待、それに応えられなかった自分の身体。家族に恥をかかせた事。そして、生まれてきてしまった事。それら全てについての謝罪だった。


 当然、レオルス王太子との婚約は破棄された。祝福アレルギーも器数同様に遺伝するのだ。


 そんなリンテに転機が訪れたのは国内で新たに2つのダンジョンが見つかった時だった。


 場所は離れているが、不思議と同時期に偶然発見された。片方は小麦畑に埋まった遺跡。もう片方は山中に現れた洞窟。いずれも中には強力な魔物が生息しており、財宝が眠っていた。


 遺跡ダンジョンの方は国の管理下となり、そこに挑戦する者も国家の認証を得た冒険者のみだったが、洞窟ダンジョンの方は入り口が複数ある事と、教会が一帯の権利を買い上げた事によって一般の冒険者でも挑戦出来るようになっていた。


 ダンジョンの話が、幽閉中のリンテに関わってくる理由は、ダンジョンにかけられた『呪縛』を理解しなければならない。


 『呪縛』とは、『祝福』と似て非なる性質を持つ物である。


 共通点は、その人の持つ器数を消費する事。器数が2しかない人間に器数3の呪縛は与えられない。器数に余裕がある人間ならば、複数の呪縛を受ける事もある。


 相違点は、許可を必要としない事。一定の条件を満たした人間に対し、呪縛は強制的にかかる上、元々そこにあった祝福を上書きする。


 基本的にメリットしかない祝福に対して、呪縛はデメリットを与える。その重さはコストに比例し、強力な祝福程高い器数を必要とするのに対し、厄介な呪縛程必要な器数が高くなるという性質を持っている。


 そして最も重要なのは、呪縛は人から人に「移す」事が出来るという事だ。それは逆に言えば、映す以外に呪縛を解除する方法はなく、危険で器数の高い呪縛ほど持て余す事になる。


 2つのダンジョンからは数多くの呪縛が見つかった。そのほとんどが2以下の呪縛だったが、中には3を超える物もあり、2年間の探索の末、最奥で冒険者にかけられた呪縛は、何と器数5という超大型の呪縛だった。


 ここにきて、リンテの境遇に目をつけた者がいた。

 かつての婚約者、レオルス王太子である。


 リンテの器数は20。祝福アレルギーによって無用の唐物であるそれは、呪縛を受けるのには最適だった。


 リンテを呪縛の受け皿とする案に、反対の声をあげる者は1人としていなかった。

 リンテの家族はこれによって失った信頼を取り戻し、名誉挽回が出来る。

 ダンジョンに挑戦した冒険者は、呪縛から解放されて新たに祝福を受けられる。

 そしてリンテ本人は自分の罪を償う事が出来る。

 それは誰も損をしない提案だった。


 話はとんとん拍子で進み、リンテの受ける呪縛が決まった。いずれも器数3以上で、受け入れ先を見つけるのが難しく、甚大なダメージを与える呪縛だった。


 そして迎えた15歳の誕生日。

 リンテは再び大聖堂を訪れていた。だが今回は地上ではない。

 人目につかない地下礼拝堂にて、呪縛の移動が行われる。


 棺桶の中に寝かされたリンテは、いつものように思った。


 お父様、お母様、お兄様。

 私のような者を婚約者として選んで下さった王太子様。

 私に良くしてくださった方々全員に、私は心からの謝罪をします。

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