三人称「王権」
『物証追跡』によって場所が分からない時、考えられる可能性は2つある。
1つは、祝福の使用者が行った事のない場所にいる場合。
『物証追跡』の「その人物がどちらの方向にいるか」という情報は使用者の感覚に依存している為、使用者が認知していない場所は存在していないのと同じであり、分からない。地図を見るのと景色を見るのは違うので、使用者による実感が伴わなければこの祝福は十分な効果を発揮しない。
王子ザリクが行方不明になり、王宮に仕える騎士達20名が『物証追跡』を使用して探したが反応はなかった。国内は当然網羅し、他国にも極地にも行った事のある経験豊富なメンバーであり、見落としは無い。となると、考えられる可能性は残りの1つ。
ザリクは死亡し、この世に存在しないという事だ。
だがそれ自体は大した問題ではない。
王の血を引き、器数5を持ち、有能な騎士だったとはいえ、側室の子は他にいくらでもいるからだ。
王宮内。謁見の間にて、王とその家臣達は戦時にも似た緊張感の中で会話をしていた。
「宰相、もう1度だ」
「ですが王……」
「いいから黙れ。早く私に祝福を」
王の祝福
『ドラゴンコーリング』コスト;5
実体を持つドラゴンの精霊を召喚し、自由に使役する。
王もかつては世話になった祝福であり、使い勝手は分かっている。誤るはずがない。
だが、何度心の中で竜を呼び出そうと、竜の精霊が姿を表す事はなかった。人を変え、時間を変え、場所を変え、王家以外の血筋でも一応試したが、ドラゴンは呼びかけに応じなかった。
『ドラゴンコーリング』がその力を喪失している。
これは王子の1人が原因不明の死を迎えた事よりも重大な事件だった。
「こんな事は初めてです。王家の守護者たるドラゴンが姿を消した事など、どの記録を漁っても出てきません。前代未聞です。信じられません」
『ドラゴンコーリング』は代々王家に伝わる祝福であり、器数以外で示せる権威の象徴だった。正式な所有権は王と次代の王位継承者にもあるが、王子ならば使用が可能となっている。利便性と戦力の誇示を目的とした制度だったが、今回はそれが裏目に出た。
「ザリク様が亡くなっているのはほぼ確実。となれば、ドラゴンが共に死する事を選んだという事でしょうか」
「そんな馬鹿な話があるか!」
玉座に王の怒号が響いた。家臣達は俯き、一様に難しい表情になり、いかにも問題を解決すべく考えている風を装ったが、その実いかにして王の機嫌を取るかしか考えていなかった。
こうなってしまっては、王に意見できる者は限られる。
「父上、こんな時こそ冷静になってください」
正統なる王位継承者、王太子レオルスが若さに似合わぬ毅然とした口調でそう言った。
「レオルスか……」
側室との子を含め、現在王には男9人女6人の子供がいる。しかしその中で器数6を持つのはレオルスただ1人。当然の如く幼少の頃から溺愛しており、レオルスの意見ならばどれだけ苛立っていようと耳を貸す。
「時間が無いので単刀直入に言います。この度のザリク失踪と『ドラゴンコーリング』の消失には、僕の元婚約者であるリンテ・グレイシアが関わっています」
そう断言したレオルスに、家臣達がざわつく。王も驚いてはいたが、動揺はしていない。
「お前がそこまで言い切るという事は、何か根拠があるのか?」
「はい。数日前、山賊の遺体がリンテの入っていた棺桶と一緒に山奥で見つかりました」
「その話なら聞いておる。混乱を避ける為に口止めしたはずだ」
器数20の呪縛がうろうろしているとなると国民がパニックになるのは想像が出来た。王としては当然の対処であり、同時にリンテの捜索を強化するように命じた。
「ええ、しかし何が起きたのか気になりましてね。彼らに話を聞いてきました」
「彼ら……?」
「殺された山賊達です」
「レオルス……まさか!」
レオルスの祝福
『ホーンテッドリネージュ』コスト:6
死体を対象とし、その持ち主の魂と会話が出来る。
「それは山賊などという下賤な者に使って良い祝福ではない! 何度もそう言っているはずだぞ!」
レオルスならばどんな我儘でも許す王が、身を乗り出して激怒していた。家臣達のざわめきは大きくなる。それもそのはず、『ホーンテッドリネージュ』は王と王太子のみに使う事を許された祝福であり、王位を継ぐのに最低でも器数が6必要な理由でもある。
死者と話せる唯一の祝福。
これは本来、歴代の王と対話する為に使われる。これにより、王は死後も国に対しての影響力を残し、擬似的な永遠の命を体現する。無論、最終的な決定権は現王にあるが、一介の貴族との決定的な格の違いを示す根拠ともなっている。
王の遺体は埋葬はされず、保存処理を施されて王宮の地下に安置される。それが王のあり方なのだ。
王の言う通り、山賊相手に気安く使って良い物ではない。レオルスの行動は暴挙と言える。レオルス自身、王に秘密でこの祝福を持ち出す事は、危険な賭けでもあった。
だが、その決断によってリンテの身に何が起きたのか、
というよりもリンテが何をしたのかがこうして明らかになった。
山賊達が死の間際に見たのは、1人の少女から放たれた深淵の力。空虚自身。
レオルスは宣言する。
「リンテ・グレイシアは悪に堕ちました。奴はこの世界を恨んで呪縛に飲まれ、異形の者と化したのです」




