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三人称「半身」

「あった」


 隠れ家に帰ってきたダミアがレコスを呼び出した。グレイスゾーンは眠っており、リンテはドラゴンといちゃいちゃしていたが、彼らに聞かれるのはまずいと判断したのは妥当だった。


「……間違いないか?」

「十中八九ね。これ、写し」

 ダミアがレコスに渡したのは、過去に処刑を執行された罪人のリスト。この50年で器数4以上を持つ罪人は74人。その内、器数5は2人。更にその2人にかけられた呪縛も書いてある。


 1人には、コスト4とコスト1の呪縛がかけられていたので、これは関係ない。

 だがもう1人には、リンテと同じくコスト5『正体不明』の呪縛をかけたという表記があった。


「……まずいな」

「まずいかな?」

「まずいだろ。……いや、むしろまずくないのか?」

「分かんないけど、まずくなくはないんじゃない?」


 リストが示しているのは、既にグレイスゾーンの半身、心臓部か脚部のどちらかが罪人の死体と共に海の底に沈んでしまったという事。それはつまり、グレイスゾーンの完全復活が絶望的である事を意味している。

 人類にとっては良い知らせであるが、この事実を報告しなければならないレコスにとっては違う。ただでさえ呪縛を受けた身。次に何をされるのかは予測がつかない。


「とりあえず、しばらくは黙っておくしかあるまい」

「いやいや、さっさと正直に言った方が良いと思うけどな。バレた時ヤバいし。お父さんがドラゴンに頭から食われてる所とかあんまり見たくないんだけど」

「言って激情されたらどうする? お前庇ってくれるのか?」

「んなワケないない。私が逃げるだけの時間を稼いでくれたら株上がるよ」


 ああでもないこうでもないとしばらく親子の相談は続いた。問題は、真実を告げるべきか否かというそれだけだったが、2人の意見は真っ二つに割れていた。だがそうなった時点で、結論は出ていた。


「グレイスゾーン……様。ちょっと良いか?」

「あら奴隷。何かしら」


 結局、言うしかなかった。ダンジョンを見つけろという催促が終わる事はないし、怒りを溜め込まれるのもよろしくはなく、レコス本人の気持ち的にもさっさと楽になった方が良いという判断を2人でした。


「どうやらあなたの半身、心臓部か脚部かは分かりませんが、20年程前に見つかった呪縛が、罪人の身体を使って処分されたそうです」

「だから?」

 だから。予想外の答えにレコスは少し狼狽えたが、激怒されてないだけまだ光明がある。


「つまり、あなたの身体は今、深い深い海の底です。奪還は不可能かと」

「それで?」

 それで。いよいよ何を言っていいのかレコスも見失い、事実をはっきりと言うしかなくなる。


「完全復活は、諦めるしか無いという事です」

「何を馬鹿な事を言っているのかしら。どうにかするのがあなたの役目でしょう? 私の半身を持ってきたら、あなたを奴隷から部下に昇進させてあげますわよ」


 滅茶苦茶を言うグレイスゾーンに、いよいよレコスも表面を取り繕う余裕が無くなってきた。

「……ですから、海の底に他の呪縛と一緒に沈んでしまった物はもう引き上げる事は出来ません。2度と上がってこないように選ばれている場所です。仮に『潜水』や『海神』あたりの祝福を使った人間がそこまで潜ったとしても、底に溜まった呪縛に襲われてそいつは死にます。特定の呪縛を持ったまま引き上げる事など絶対に不可能です」


「黙れ」


 そう言ったのはグレイスゾーンではなく、ドラゴンのステラだった。昼間とは違ってはっきりとした低い声でこう尋ねる。

「この場所を知っている者は?」

「は?」

「我々以外にこの隠れ家を知っている奴はいるのか? 正直に答えろ」

「……どういう意味だ?」

「ちっ」


 舌打ちは苛立ちによる物ではなく、タンギングだった。ドラゴンが起こすそれは、ある行動の前段階である。


 ステラが咆哮と共に口から火炎球を吐き出した。一直線に隠れ家の壁を突き破り、その先にいた人物に命中する。男の野太い悲鳴。舞い散る火の粉。焦げる匂い。ひっくり返るダミア。


 少しして煙が晴れ、壁の向こうには男が倒れていた。

「……ストナン? お前、ストナンか?」


 ストナンの祝福

 『聴覚強化』 コスト:2

 どんなに小さな音すら聞き逃さない。


 そこそこに分厚い壁越しでも、この祝福によって話し声を拾う事が出来る。外からの盗み聞きならバレるはずはないとストナンは踏んでいたが、ピット器官を持つドラゴンがいたのはあまりにも予想外だった。


「な……くそっ! 一体どうなってやがる!?」

 狼狽していたのはストナンだけではない。隠れ家が破壊されたレコスもだった。だがまずは服に火をついた知り合いを助ける事が優先する。ダミアと協力してはたいて消し、誰にも見られていないか周囲の様子を窺う。


「どけレコス。そいつを殺す」

 ステラが冷静に命令した。

「殺すな! こいつは知り合いだ、司祭仲間だよ昔の。ちくしょう、誰かが外にいると素直に言え!」

「ならばつべこべ言わずにさっさと質問に答えればよかろう」

 リンテの前できゅいきゅい言ってるペットと本当に同一個体かと問い詰めたくなったレコスだったが、今は仲間の手当てが先だった。


 幸い、骨は折れていないようで、服は焦げたが火傷もそんなに酷くはない。ステラが手加減をしてくれたのか、あるいは人1人を壁越しに殺せる程までにはまだ成長していないのかは不明だが、とにかくストナンは意識を保っていた。


 となれば、当然質問が来る。

「こ、これはどういう事なんだレコス。何でドラゴンがこんな所にいる? しかもあそこにいるのはリンテ・グレイシアか。どういう事だ……訳が分からない……」


 見られてしまった以上は仕方ない。

 レコスはグレイスゾーンに伺いを立て、現在自分の身に何が起こっているのか、経緯を話した。

 無論、グレイスゾーンはストナン自身や盗み聞きをした事を許した訳ではない。新たな奴隷が増える事を許しただけだった。

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