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三人称「右腕」

「改めて自己紹介するね。私はダミア。えっと、何て呼べば良いのかな? 邪神らしくグレイスゾーン様?言いにくいから縮めてゾーンちゃんって呼んで良い?」


 父の猛反対を押し切り、リンテが眠りについてから隠れ家を訪れたダミア。

 馬車での追跡の際が初対面だったが、その時は長く話せなかったので、これが実質的に初めての挨拶という事になる。


「次にちゃん付けで呼んだらぶっ殺しますわ」

 グレイスゾーンはそう言って、リンテの身体を起こした。


 リンテが戻ってから1週間が経ち、隠れ家内にも一通りの家具が揃い、リンテが掃除してかなり見栄えは良くなった。1歩も外には出られていないが、リンテ自身閉じ込められるのには慣れており不満はない。だがグレイスゾーンは別だ。


「それで、ダンジョンは見つかりましたの?」

 尋ねられたレコスが首を横に振る。

「ここ数ヶ月、国内で新しく見つかったダンジョンは無い。知り合いの騎士、司祭、冒険者にそれなりの金を払って探ってみたが、隠している様子すらない」

「ふぅん。まだ見つけてないだけかしら。人間って意外と無能だものね」

 罵るのが目的ではなく素直に出た言葉は客観的だった。


「というか……本当にあるのか?」

「あるに決まっているでしょう。私の半身が、人間ごときにどうにか出来るはずがないわ」


 グレイスゾーンがレコスに命じているダンジョン探しは、ダンジョンその物というより、その奥にある呪縛こそを真の目標としている。


 現在、リンテの身体にかけられた呪縛は、3つ。1つはドラゴンに栄養を分け与える為の物であるが、残りの2つはグレイスゾーン自身が呪縛化し、封印されている物である。それぞれが頭部と腕部を司っており、リンテの中で繋がる事によって機能の一部を使えるようになっている。


「出来れば先に心臓部を手に入れたいですわ。それさえあれば不完全ではありますが肉体を手に入れられますもの」

 現状、リンテの中にいるグレイスゾーンには意外と自由がない。リンテの意識が無い時にしか表に出てこれない上、リンテの健康を維持する為にはそれなりに睡眠も取らなくてはいけないし、もちろん肉体は生身の人間なので無茶な負荷は掛けられない。


「手に入るのが脚部なら、何が出来るようになるんだ?」

 レコスはほんの興味本位、といった風な聞き方をしたが、呪縛から逃れる為にはかなり重要な情報と言えた。もちろんグレイスゾーンはその意図に気付いている。

「知りたいのなら、さっさとダンジョンを見つけてきなさいな」

「……ああ、分かってるよ」


「あのー、ちょっと良い?」

 自己紹介を「ぶっ殺す」で片付けられた後、ずっとタイミングを見計らっていたダミアが今だとばかりに割って入った。

「ゾーンちゃ……ゾーン様の半身なんだけどさ、既に見つかっていて海に沈められている可能性があるんじゃない?」


 それは今更でもあったが無視出来ない指摘だった。

 グレイスゾーンの意識は今、リンテの中にある頭部の呪縛に宿っている。たまたま腕部と再会する事によってそれを扱う事が出来たが、心臓部もしくは脚部のみが合流する前に誰かに付与され海に沈められているとしたら、それを探すのは非常に難しい。


「……罪人にかけられた呪縛の記録があれば、とりあえず確認は出来るな」

 レコスが呟く。少ないとはいえ、器数5を持ちつつ罪を犯す者もいる事はいる。大抵の場合はその有能さから国が奴隷として利用するが、罪の内容自体が到底許し難い物であった場合などは他の罪人と同じ扱いを受ける事になる。


「その記録というのは誰が持っていますの?」

「知らん。国王か法王あたりじゃないか」

 グレイスゾーンの黒いもやが唐突にレコスの首根っこを掴んだ。

「少し打ち解けてきたからって調子乗ってんじゃねえですわよ。敬語を使いなさい敬語を」

「す……すみません」

 ダミアは笑っている。


 解放されたレコスは、首をさすりながら真剣に答えた。

「真面目な話、呪縛の移動先や内容は機密情報だ。その罪人が呪縛を抱えたまま逃げ出したりしない限り、情報は公にならない。だから下っ端を捕まえて拷問にかけた所でそもそも知っているはずがない。探りを入れるのは無理だ」


「処刑船の船長ドロフならどうだろう?」

 その疑問を呈したのは意外にもラルだった。

「知り合いなのか?」

「……いや、奴が有名なだけだ。国に所属していながら、裏の顔がある。……奴隷商人とかな」

「まあ、俺も噂くらいは聞いた事あるが、関わるのはどうだろうな」


 2人が腕を組んで考えたが、結局答えを出すのは支配者を置いて他に無い。


「その前に改めて問いたい。貴様らは本当に主に忠誠を誓っておるのか?」


 突然、聴きなれない声がした。リンテの声帯を使って喋るグレイスゾーンの声では決してない、低くくぐもったような、人ならざる者の雰囲気を纏っている。ぎょっとして周囲を見渡す3人。ドラゴンに睨まれている事にレコスが気づいた。


「このドラゴン、喋れるのか……?」

「我の質問に答えよ。主への忠誠を誓っているのか?」


 生まれてまだ1週間。初めて聞いた台詞は予想外に渋く重厚だった。

 戸惑う人間達にグレイスゾーンが答える。


「ミトラステラ、今はまだ、こいつらはただの奴隷でいいの。部下にするかどうかは決めてないわ」

「そうだったのですか。これは出過ぎた真似を致しました。申し訳ありません」

「いいよー」


 どうやら上下関係はきちんとしているらしい。

 やりとりを見つつ、レコスが心配になったのはリンテが目覚めてた後の事だった。


「ちょっと待て。リンテにもその態度で接したら、いくら鈍感な娘でも何かおかしいと気づくぞ」

「心得ておる。リンテの前ではかわいいペットを演じるつもりだ。それが主様の為ならばな」

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