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三人称「潜水」

 新たなダンジョンが発見される時というのは、大きな地震があった直後であったり、大雨で地滑りが起きた直後など、地形の変化が原因で入り口が露になるというケースが多い。ダンジョンが発見されると、まずは国の騎士団が調査に向かい、その深度や危険度からどのような扱いをするかを判断する。大抵の場合はそのまま騎士達だけでダンジョンを攻略し、「旨味」を独占する。


 ただし、ダンジョンが発見された際に、その土地を教会が所持している場合はこの限りではなく、騎士団ではなく教会所属の聖騎士団が調査を行う事となっている。そして大抵の場合は冒険者に向けて入場が開放され、教会への寄付を前提に全ての人間がダンジョンに挑戦出来るようになる。


 これらの事情から、ダンジョンを発見した人物や団体は、義務である国への報告をする前に教会に話を持ちかける場合が非常に多い。名誉を取るか金を取るかは、ダンジョンの発見者に委ねられているという訳だった。


 だがそのダンジョンは、通常とは少し違ったパターンで発見された。

 自然災害などの影響ではなく、ある漁師が持つ祝福がきっかけだった。


 漁師Aの祝福

 『潜水』 コスト:2

 水圧による影響を受けない。


 漁師Bの祝福

 『呼吸代行』 コスト:2

 対象の人物の呼吸を代わりに行う。


 夫婦で漁を行なっている2人がいた。夫が操舵する小舟1つで複雑な海岸を移動し、『潜水』を持った妻が水中に潜る。その間、夫は『代理呼吸』を用いて水上で妻の分まで空気を吸って吐く。これによって、本来なら人間では到達出来ない水深100m以上の場所にいる貝や魚を獲る事が出来た。『代理呼吸』は使用者の意識が途切れたり、ある程度の距離が離れると無効になるので、相応の信頼関係が無ければ成り立たない漁の仕方だった。


 港町ポラストの近くに居を構えるこの夫婦は、ある日いつものように潜水漁中、人1人がかろうじて通れる程の横穴を見つけた。その日は収穫が少なかった事もあり、妻は夫に相談の上で、その横穴の中に入ってみる事にした。


 細い道で身体を捻りながらしばらく進むと、空間が急に開けた。更に中は空洞になっており、地上と変わらない空気で満たされていた。光源がほとんど無いので暗く、先がどうなっているのかは分からなかったが、空洞はどこまでも続いているくらい深かった。そして何より、そこにいた蟹はハサミが「4本」あった。


 ダンジョンだ。知識の無い漁師でも、そこがそうである事はすぐに分かった。元来た道を戻り、自分が見た物を夫に報告した。生物が異形の物と化す、いわゆるモンスター化。手付かずの場所。雰囲気。全てがダンジョンだと主張していた。


 さて、問題は新たなダンジョンの発見をどこの誰に報告するかだ。夫婦はもちろん名誉よりも金銭の方が欲しかったので、教会が妥当に思えたが、今回の場合は発見されたのが海中であり、横穴の位置は僅かに陸から海側に出ていた。その場所の漁業権は夫婦の所属している組合にあるが、当然ながら土地の権利まではそこに含まれない。という事は、そのダンジョンの権利は一体誰にあるのか。


 そもそも、海中で発見されたダンジョンなど、入る事が出来る人間がいるのかという問題もある。夫婦の場合は『潜水』と『呼吸代行』のコンボによってたまたま発見出来たが、同じ事が出来る人間は限られている。単独での水中活動が可能な物として、『海神』というコスト5の祝福があるが、これを用いた場合は戦闘に関する祝福は全く受けられない事になるので、ダンジョンの攻略など不可能に近い。


 地上で発見されたダンジョンとは違い、致命的なまでに不便で、更に所有者もはっきり出来ないダンジョン。かと言って見なかった事にして暮らすにはあまりにももったいなく、困った夫婦はある男に相談を持ちかけた。


 処刑船の船長、ドロフである。

 今は国家に所属し海軍として働いているが、元は地元の漁師の生まれだった。平民にしては珍しく器数3を持ち、両親から教わった海の知識と地元のコネクションを生かし、40を過ぎた今では国の船を一隻任される事になった。


 夫婦もドロフとは面識があり、何かと世話になっていた。海底ダンジョンの相談を持ちかけるにはぴったりな相手だった。


 ダンジョンの話を聞いたドロフは、すぐにこんな提案をした。

「そんなもん、国と教会の両方を巻き込んで、貴族にダンジョン入場権を売ればいいだろ」


 こうして「裏」ダンジョンの「ポラスト海底」が出来上がった。

 ドロフが陣頭に立ち、まずは国や教会に所属していながら燻っている連中に声をかけた。ドロフ自身がそうだったので、仲間を見つけるのは容易く、話に乗ってくる者は意外と多かった。両方に金を握らせつつ、秘密裏にダンジョンに挑む貴族をスカウトする。国からは装備品や消耗品のサポートを受け、教会には祝福の面で頼る。存在がバレそうになった時は、関係者が隠蔽に協力してくれる。漁師達は仲間を誘って『呼吸代行』の祝福を得て、貴族達をダンジョンへと案内した。そうして得られる案内料は漁で稼ぐよりも遥かに多かった。


 もちろん、貴族達にも旨味はある。ダンジョン内のモンスターが持つ高価な素材、貴重な鉱石、何より新たな祝福への目覚め。これらの報酬が地上にあるダンジョンよりも遥かに「美味しく」手に入る。貴族としては低い器数3に生まれた者や、何らかの理由で家を追放された者など、裏ダンジョンに挑戦する者はそれなりにいた。


 その日も、一組の貴族が裏ダンジョンへ挑戦出来るという噂を聞きつけ、港町ポラストへとやってきた。


 4人パーティーのリーダーは、アッシュ・グレイシア。リンテの兄だった。

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