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三人称「器数」

 人には生まれつき『器数(きすう)』という物が定まっている。


 平民なら大抵は「1」。良くて「2」。ごく稀に「3」。

 貴族なら最低でも「3」。「4」あれば優秀。「5」あれば英雄。


 この『器数』は成長によって変化する事はなく、生涯変わらない。

 『器数』の高い者同士の間には『器数』の高い子供が生まれやすいので、より良い血を保つ為に貴族は貴族と結婚するのが当然となっている。


 『器数』の大きさが何故重要なのか。それはその数だけ『祝福』が受けられる事にある。


 司祭の祝福

 『器数判定』 コスト:3

 対象人物の器数を視覚的に分かりやすく表示する。


 貴族の出産に必ず司祭が立ち会うのは、祝福スキル『器数判定』が使用出来るからだった。

 祝福にはそれぞれコストが設定されており、スキルは器数内に収めなくてはならない。これは司祭以外の、戦士や狩人や魔術師であっても同じで、高い器数を持っていればより多くのスキルを、複数所持する事も可能になる。


 この地に生きる者は全て、そのルールからは逃れられない定めにある。

 王であっても乞食であっても、器数の


 公爵家グレイシアの長女リンテ・グレイシアもその例外ではない。

 しかし彼女の器数はあまりにも飛びぬけ過ぎていた。


「こ……これは……」

 生まれたての赤ん坊の周囲を複数の真っ白な四角形がぐるぐると回っている。


 その日、出産に立ち会った司祭は、いつものように祝福スキル『器数判定』を発動し、新生児の器数を確かめようとした。


 リンテ・グレイシア 器数 0/20

 □□□□□□□□□□□□□□□□□□□□


 数えてみると、「20」あった。

 例え王の血筋でも「6」は珍しく、王家に「7」を持つ子供が生まれれば国を挙げての祝祭が開かれる。

 そんな中で突然に「20」という器数を持った女の子が生まれたのだから、司祭が自身の目を疑うのも無理はなかった。


 だが何度『器数判定』を使っても表示される□の数は変わらない。仕方なく、司祭はありのままの状況を彼女の両親に伝える事にした。


 当然、彼女の両親もすぐには信じなかった。何故なら、両親の器数は2人とも「4」。大体は「4」が生まれ、運が悪ければ「3」だ。しかし6年前に生まれた長男アッシュの器数は「5」。それだけでもかなりの幸運だと言われたが、今回は全く未知の領域である「20」。


「……」


 絶句する母親のグレアに、父親のオズマが苦笑いしながら言った。


「はは……司祭様には申し訳ありませんが、何かの間違いでしょう? 器数『20』なんて聞いた事がありませんし、存在するはずがない」


 オズマの言う事はもっともだったので、司祭も強くは反論しなかった。仕方なく、教会からもう2人『器数判定』を使える司祭を呼び、測り直したが結果は揃って「20」だった。


「神の子です」


 3人の中で最も権威を持つ器数「5」の司祭がそう断言した。


「彼女は神が我々に遣わした子です」


 瞬く間、噂は大陸中に広がった。グレイシア家に誕生した、器数「20」を持つ神の子。


 必然、生まれた翌日から縁談の申し込みが殺到した。器数は両親から遺伝する事が分かっているので、あり得ない話だが、もし仮にリンテが器数「1」の平民と結婚したとしても、その子供は器数「10」を超える超強力な貴族となる。まだ生まれたてで、顔の美しさや気性が全くの未知だとしても、貴族達が彼女を奪い合わないはずがなかった。


 生後1ヶ月が経つ頃には、200を超える名家から申し込みがあったが、オズマはその全てを保留とした。様々に魅力的な条件を出されたが、オズマには分かっていたのだ。


「旦那様、王家から使者様がお見えになりました」

「……来たか」


 器数「20」は権力のバランスを大きく崩す。現王の器数は「6」。その息子であるレオルス王太子の器数も同じく「6」。その3倍を超える自分の娘が、もし有力で野心のある貴族に嫁げば、王家の地位が危うい。


 グレイシア家の書斎にて、招き入れられた使者は王からの手紙を読み上げたあと、頭を下げた。


 その内容自体は、他の貴族と変わらずグレイシア家の長女リンテを許嫁として婚約を結びたいという物。まだ初祝福も受けていない子供に嫁ぎ先が決まるのは異例中の異例だったが、何としても確保しなければならないという事情があった。


 誕生から1ヶ月の間があいたのは、事の真偽を確かめる為だろう。実際、生まれた日からありとあらゆる司祭がシェフィの元を訪れ、『器数判定』を行った。


 王からの手紙には更に、婚姻が成立した暁にはグレイシア家には国内にある好きな領地を与えるという一文があった。これもまた異例中の異例である。領土には当然、先にそこを治めている貴族がいるはずで、「好きな」という事はその貴族を追い出しても良い事と解釈出来る。

 これがもし戦時中であれば、下手を打った者から取り上げた領地を活躍した者に分け与えるという事もあるが、今は200年以上も平和な状態が維持されている。魔物の巣食うダンジョンなどは時々発見されるが、他国との戦争は起こっていない。


 つまりそれは、王が貴族に対して用意出来る最上級の飴という事になる。


 オズマはこれを二つ返事で了承した。王家との縁組が決まれば、家名は不動の物となるだけではなく、領地も広がる。断る理由が無かった。王太子は長男のアッシュと同じ6歳で、リンテとの年齢差もちょうど良かった。


 前代未聞の器数「20」を持ち生まれた公爵令嬢のリンテ。


 生後1ヶ月で王族との婚約が決まり、一見最高の始まりかのように見えた彼女の人生は、ある時をきっかけにその方向を大きく変える事になる。


 それはリンテ12歳の誕生日、初めて祝福を受けた時の事だった。

 この作品ではなろうで共有されている異世界感から少し離れた概念が登場する事があるので、後書きを使って補足していこうと思います。


 今回登場した「器数」という言葉は造語で、分かりやすく言えばゲームのスロットのような物と理解してください。その数値の中でしか祝福か呪縛は受けられず、祝福や呪縛にはそれぞれコストが設定されています。

 生まれつきの物なので、後で成長するという事はありません。なので、器数「20」を持って生まれたリンテはとんでもなく恵まれていたという事になります。簡単に言えばチートです。

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