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三人称「王族」

 王都北西にあるトーブル砦内、作戦室。

 1人の騎士が、椅子に座らされていた。

 その目は虚ろで、空中の何もない場所を見つめながら、時々視線が泳ぎ、声をかけられると一瞬焦点が合うのだが、少しするとまたふらふらと落ち着かなくなる。その騎士と苦楽を共にしてきた仲間の騎士でなくとも、彼が正常な状態ではないという事は分かる。


 騎士Fの呪縛

 『記憶封印』 コスト:3

 この呪縛を受けた前後1日の記憶が喪失する。呪縛が無くなっても戻らない。


 不幸にも街道でグレイスゾーンに遭遇し、呪縛をかけられた騎士だった。1人だけでふらふらと戻ってきた所をトーブル砦の付近で保護され、そのまま取り調べを受ける事になった。


「本当に新たな呪縛なんだな?」

 トーブル砦の主である男が司祭に再度確認する。

「ええ、間違いありません。新発見の呪縛です」

 祝福を管理する必要性から、各地の砦には騎士だけではなく司祭が何名か配置されている。『祝福判定』は対象者にかかった呪縛も一緒に判定するが、司祭がその呪縛について知らなければ詳細は分からないという性質を持っている。


「ご存知の通り、呪縛という物は基本的にダンジョンからしか発見されません。地上で呪縛を受ける可能性があるのは、呪縛を持つ者が死亡して近くにいた者に移ったケースか、『呪縛移動』を持つ司祭が意図的に移すケースしかありません」

 そう話す司祭に、取り調べに参加していた別の騎士が前へ出た。

「彼と彼の所属していた部隊はリンテ・グレイシアの捜索に出ました。今の司祭様のお話から考えられる可能性は、リンテ・グレイシアが死亡し、彼に呪縛が移ったという事ですか?」


 それはもっともらしい意見だったが、間違っている。

「いや……リンテ・グレイシアが請け負った呪縛は『三感封印』『エンフィーブル』『死する運命』『正体不明』の4種だったはず」

「なら『正体不明』では?」

「必要コストが違う。あれは器数が5も必要な全く謎の呪縛だった。彼の受けているのは3。どうにも辻褄が合わない」


「とにかく、王都まで彼を運び、罪人に『呪縛移動』をして正常に戻った後、話を聞くしかあるまい。それと並行して、リンテ・グレイシアの捜索も続ける。訳の分からぬ呪縛を持ったままうろうろされたら堪らんからな」

「はっ!」

 騎士達が一斉に動き出した。と、同時に止まった。


「ちょっと待ってもらえます?」

 そこにいたのは、眼鏡をかけた金髪の男だった。装備自体は他の騎士とほぼ同じだが、胸についた勲章と、鎧の上から羽織った高級な布で出来たマントが明らかに上位の存在である事を示していた。

「これはこれはザリク様。こんな場所までわざわざお越し頂き……」

「ああ、そういう挨拶は時間がもったいないので省略しましょう。彼、見せてもらいますよ」

 砦主に断りを入れ、ザリクと呼ばれた男は上の空状態の騎士を観察する。


「ふむ。新種の呪縛ですか……彼にダンジョンの経験は?」

「ありません。それにしても一見しただけでお分かりになるとは、流石は……」

「ほんとそういうのいらないです。時間がないので」

 ザリクはそう言うと、騎士からやや距離を取り、鎧の上から着たマントを外し、さっと畳んで側に置いた。


「申し訳ないんですが、彼、壊しますよ」

「は? それはどういう……」

 城主が許可する前にザリクは動いていた。

 弓の弦を引くかのように右手を後ろに構え、集中した後で前に突き出す。

 するとそこから、半透明になったドラゴンの頭部だけが出現した。青と赤の色合いや形状からしてポラストに停泊中の船からザリクが乗って出発したそれと同じだが、サイズは小さめだった。


 ザリクの祝福

 『ドラゴンコーリング』 コスト:5

 実体を持つドラゴンの精霊を召喚し、自由に使役する。


 発動時に巻き起こった風で、よろけて転びそうになる騎士達。そんな彼らを尻目に、ドラゴンの頭部は呪縛を受けた騎士の心臓部へと突っ込み、そのまま背中側へと突き抜けた。

「げはっ」

 騎士が吐血する。一瞬で顔が真っ白になる。ザリク自身はさも当たり前のように落ち着き払っているが周囲には何が起きているか分かる者はいなかった。だが歯向かう者もいなかった。呪縛を受けた騎士は気を失い、瀕死状態にある。


 ドラゴンはすぐに引っ込んだが、ザリクはしばらく黙っていた。痺れを切らした砦主が声をかける。

「あの……ザリク様。一体何をされたのでしょう? 彼はどうなるんですか?」

 ザリクは少し呆けたような表情で、砦主の顔を見ていた。

 騎士ほどではないが、心ここにあらずという感じで、深い思考に耽っているようでもある。

「ああ……。まあ、適当に手当てしておいてください。間に合えば、命は助かる」

 気のない答えではあるが、一応は返事があった事で砦主は更に尋ねる。

「何か、呪縛について分かりましたか?」

 少し考えた後、ザリクは不思議そうに答える。

「あなたごときが理解出来るはずがない」


 ザリクは踵を返し、マントを羽織りながら砦の外に出た。そこで再び祝福を発動し、ドラゴンを呼び出す。今度は頭部だけではなく全身であり、その背中に跨って飛び立つ。


「くそっ、一体何なんだあいつは!?」

「ひでえ事しやがる。にしてもあの祝福は何だ?」

「知るか。王族の考える事なんて、俺らに分かるはずがない」

 残された騎士達が口々にザリクに文句を言い出したが、砦主がそれを制した。

「……お前ら、それ以上は口を慎め」


 ザリク・レイフォード。

 器数5を持つ騎士であり、世界で唯一『ドラゴンコーリング』の祝福を持つ。

 そして現国王の第一子にして、王太子レオルスの兄、王になれなかった男。


「……ああはなりたくないだろう」

 砦主が椅子に座ったままの騎士を指さす。

 騎士の半身には鱗が浮かび上がり、頭部の毛も抜け落ち始めていた。ザリクの宣言通り、騎士の身体は既に壊れていた。

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