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三人称「追跡」

「くそっ!!!一体何なんだあいつは!」

 怒りに満ちたレコスの声が、宿屋の2階で轟いた。

 ラルが見下ろした机には、リンテからの手紙。貴族らしく丁寧な字だ。


『嘘をついてしまって申し訳ありません。

 レコス様の素敵な提案、私も心揺さぶられる所がありました。

 こんな私でも、誰かのお役に立てるのならと、一瞬本気でそう思ったのです。


 しかし私は呪われた存在です。呪縛も全てが解けた訳ではありませんし、このまま失踪すれば追われる身となります。そしてレコス様やラル様が私を保護している事が知られれば、お2人に更なる御迷惑をかける事になります。


 ですので、私は行きます。

 挨拶もしないまま、お別れになる事をどうかお許し下さい。

                          リンテ・グレイシア』


「何故奴はあんなに死にたがっているんだ!?」

 手紙を読み直し、レコスは腹いせに机を拳で殴る。それも仕方のない事だった。昨日、レコスはグレイスゾーンに呪縛をかけられ、1日に1度はリンテに触れなければ死ぬという決まりを設けられたのだ。だからこそ出来もしない「研究」という嘘をついてまで、リンテをこの町に留まらせようとした。


 だがそんなレコスの思惑をリンテが知る由もない。自身の中に何かがいる事すら知らない上に、レコスの嘘にも気付いていない。ただ、周囲に迷惑をかけたくないという純粋にして善なる気持ちによって状況を悪化させていた。


「行く宛に心当たりは?」と、レコスがラルに尋ねる。

「ポラストに向かうって最初は言ってたけど……呪縛が半分消えてるって聞いたから王都の方に戻ったかも」

「逆方向じゃないか! くそ!」

 レコスは苛立ちながらしばらく部屋の中をうろうろしていた。リンテがどちらに向かったか、確率は2分の1。狂ったお人好しである事を考えると、わざわざ自ら呪縛を受け直しに王都に行ったか、あるいは意外と頑固な性格からして当初の予定通りにポラストに向かったか。


 いやそもそも、仮に行き先が分かったとしても、どうやって向かったかまでは分からない。地道に歩いてか、馬車を雇ったか、ルートは? 寄り道の可能性は? 途中でグレイスゾーンが目覚めるなんて事もあり得るか? いずれにも明確な答えは無かった。だが、かかっているのは己の命。そう易々と諦める訳にはいかなかった。


「……ちっ、仕方ない」

 そう呟くと、レコスは昨晩リンテが寝ていたベッドに備え付けられた引出しを開けて、中を物色し始めた。

「おい、何してんだ?」

 ラルの質問を無視して、レコスが手に取ったのは昨日リンテが履いていた下着だった。

「おいおい」

 下着を何度か触って確かめ「……よし」と頷くレコス。

「おいおいおいおい」

 ラルの制止を振り切り、レコスは下着をポケットに大事そうに仕舞うと、宿屋を飛び出した。


 仕方なくラルもそれについて行く。レコスが向かったのは自宅だった。商売相手の関係上、あまり素性を明かすのは良い事ではないが、背に腹は変えられない。レコスはそう判断した。


「あれ? お父さん、どうしたの血相変えて」

 レコスには今年で18になる娘がいた。

「ダミア、これで頼む」

 そして差し出したのはリンテの下着。それを後ろから見ながら、ラルは思った。


 会ったばかりの女の使用済み下着を自分の娘に渡して何か頼み事をしている。

 こいつは思っていたよりもやばい奴だった、と。


 だがもちろん違う。レコスにとってこれは死活問題であり、決してふざけている訳ではない。


「あーはいはい。事情は移動しながら聞くわ」


 ダミアの祝福

 『物証追跡』 コスト:3

 対象の物体を所有していた人物がどこにいるか、距離と方角が分かる。


「西に約8km。王都の方角ね。見失ったのはいつ?」

「2時間前だ」

「それなら馬車で移動してる。どうやって追いつこうか」

「こっちも馬車を出すしかない。金を多めに払って急がせよう」

 会話をしながら支度を済ませ、3人はリンテを追って町を出発した。


「じゃ、そろそろ理由を聞かせてよ。何でそんなに焦ってんの?」

 馬車の中、ダミアがにこにこしながら尋ねる。レコスが少し渋ったのはこれが理由だった。ダミアに事情を説明すればどうなるか、実の父だけあって見当がついているのだ。


「……お前はこの件に首を突っ込むな」

「ふーん」ダミアは明らかに不服な顔をして「私の祝福を使っておいて、家の金で馬車を雇って、その上に事情すら聞くなって?」

 レコスは腕を組み、ラルの方をちらりと見た。

「依頼者が秘密は守って欲しいと言っている」

「え?」と、ラル。

「そうなの? 小さな依頼者さん」

 にっこりと笑うダミア。柔らかな声と表情でも、そこからは威圧感が伝わってきた。

「いや、俺は別に……」

 ラルがそう答えると、ダミアは再び矛先をレコスに向けた。

「だってさ、お父さん。もう嘘つかないでね」

 レコスはラルを苦々しげに見つめ「本当に使えん奴だ……」と呟いた。


 その後、仕方なくレコスはリンテの素性について話す事になった。器数20にして祝福アレルギー。聖女のように純真で疑う事を知らないが、変な所でこだわりがある。極度の死にたがりであり、実際戦闘能力はゼロだし運も悪い。だが、その身体の中には邪神が封印されている。


 そして自分は邪神に呪縛をかけられており、明日までに捕まえなければ死ぬという事も正直に話した。


「お父さん」

 一通り話を聞き終わった後、ダミアはレコスに向き直った。

「そんな面白い話を聞かせて、私が首を突っ込まないと本気で思った訳?」


 だから話すのは嫌だった、とレコスは改めて思う。

 ダミアの職業は冒険者兼探偵。祝福スキルを使った人探しを生業にしていた。その祝福を選んだのは、色んな面倒事に割って入れるからだった。


 そんな好奇心旺盛な性格に加え、今回は父の命もかかっている。

「何としてでも捕まえないとね。リンテちゃん、死ぬにはもったいなすぎるわ」


 3人の乗った馬車が、猛スピードでリンテを追いかける。

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