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三人称「改変」

 本来、平民であっても新たに祝福を受けるのならば教会に行かなければならない。

 そこで希望する祝福を述べ、希望する理由を話し、利用用途について誓いを立て、寄付をする事によってようやく祝福を得る事が出来るのだ。物によっては人殺しさえ容易なので、この手続きは必須だった。そして教会には人の嘘を見破る祝福を持った司祭が必ず1人は在籍しており、犯罪を目的に祝福を得ようとする者はその場で捕まる。


 しかしながら、どんな物事にも「裏」という物が存在する。祝福を与える祝福である『福音』を持ちながら、教会の所属を離れた者。それこそがいわゆる「もぐりの司祭」であり、面倒な手続きや希望者の事情は聞かず、「寄付」という体面すら取り繕わず、割高だがきっちりと「料金」を貰って祝福を与える事を生業としている者だ。


「ラル、お前だけか? 仲間はどうした?」

「……あいつらは仲間じゃない。でももう1人いる」

「あ?」


 深夜の宿屋2階、ラルの取った部屋の前、そんな会話が交わされた後、扉が開いた。


「……リンテ・グレイシアか。公爵家の」

 その男は、リンテの顔を見てすぐに名前を言い当てた。

「そう言うてめえは何者かしら?」

 あぐらをかいてベッドに座り、奇妙な言葉で喋るリンテ。男はラルに尋ねる。

「訳が分からん。一体どういう事だ?」


 男の名前はレコス。この町を根城にもぐりの司祭をやっている40代のならず者。元聖職者ではあるものの、見た目では全く分からず、麻のズボンに黒の外套という出立ちだった。


 眠る前、ラルはリンテに「司祭は朝に来る」と伝えたが、ラルがレコスに会わせたかったのはリンテではなくリンテの中にいるグレイスゾーンだった。リンテが眠っている間しかこうして表に出てこれないので、わざわざ嘘をついてでもそうしなければならなかった。


 ラルはこれまでの経緯を全てレコスに話した。

 呪縛のかかったリンテを乗せた馬車を襲った事。アジトに持ち帰った後でリンテが豹変し、山賊達を皆殺しにした事。この町までの道中で騎士達も殺した事。そして、リンテの中にいる者とこうして意思疎通が出来る事。更に本人は神を名乗っている事。


「どいつもこいつもグレイスゾーンの名を知らねえってのは絶望ですわね」

 グレイスゾーンはキレていた。一応は司祭であるレコスにさえ、自らの名を名乗っても反応が無かったからだ。


「1万年ぶりに目覚めてみればこの様とは、腹が立って仕方ないですわ。クソが!」

「1万年だと?」と、レコスが聞きただす。

「あ? 何か文句ありますの? ああ?」

 悪態をつきながらレコスを睨みつけるグレイスゾーン。

「いや……初めての祝福がこの世に生まれたのがその辺りの時期だったと聞いた事がある。……あくまでも伝説上の話だが」

「なんだ知ってんじゃねえですわ。それを作ったのがこのワタクシ、グレイスゾーンって訳ですわ」

「……いや、しかし……うーむ」

 にわかには信じがたい様子で、レコスはリンテの身体を眺める。見た目は可憐な少女でありながらこの様子。騎士も山賊も皆殺しにしたというのも嘘とは思えず、何より少女の纏った黒いもやはレコスが知っているどの祝福にも呪縛にも当てはまらない。


「いいからこれだけは覚えておいてくださる? お前ら人間共に器数の概念を与えたのはこのワタクシなのですわ。そこに私が色々と便利な呪縛をかけて操ってきたというのに、反抗するからこんな事になってるんですのよ」

 グレイスゾーンは続ける。

「私の身体はバラバラになって、4つの呪縛に分けられましたわ。そして人間共は私を地中深くに封印して、歴史から消し去りやがりました。全く恩知らずにも程がありますわね。お前らが便利に暮らしていけるのはほとんどワタクシのおかげだと言うのに」


「待て待て。という事は何か? 祝福より呪縛の方が先にあって、しかもあんたは呪縛を使って人間を支配していたと、そういう事を言っているのか?」

「だからそうだと言ってるじゃありませんか。本当に欲深くて愚かな奴らですわ」

「やっぱり邪神じゃないか……」

 ラルが思わずそう呟くと、グレイスゾーンが反応する。

「邪神……本当に良い響きですわね。これからは私の事を邪神グレイスゾーンと呼んでいただいても構いません事よ、下僕達」

 そう言って高らかに笑うグレイスゾーンに、ラルとレコスは顔を見合わせた。


「……ちょっと待て。下僕ってのは俺達の事か?」

「他に誰がいると言うのです?」

 レコスは呆れた様子で告げる。

「……まず第一に、お前に協力するメリットが無い。邪神だか何だか知らんが、金の無い奴は客じゃない。それから第二に、危険なのはまっぴらごめんだ。こちとら闇稼業なんでね。無駄なリスクを背負う訳にはいかない。そして第三に、お前の話はそもそも信用ならない」

 グレイスゾーンは目を細め、レコスを睨んだ。

「ラル、申し訳ないがこういう事なら俺は話を降りる。もう2度と顔を見せないでくれ。話自体は面白かったがな」


 レコスはそう言って、部屋を出ようとした。

 それを現世に蘇った邪神が許す訳がない。


「かはっ!」

 黒いもやが、グレコスの背中に刺さっていた。

「や、やめろグレイスゾーン!」ラルが叫ぶも、無駄だった。


「ほー、意外や意外、器数が5もありやがるのね。もぐりの司祭の割に、やりますわね」


 レコスの祝福

 『福音』 コスト:3

  使用者の理解している祝福を対象の合意の上で与える。


 『祝福判定』 コスト:2

  相手にかかっている祝福が、使用者が知っている者であれば判定する。


 1人でもぐりの司祭をやってく為の祝福がレコスは獲得していた。身体をもやに貫かれながら、必死に抵抗する。


「や、やめろ……何をしやがる……」

「ワタクシの話を聞いてなかったのかしら。私が1万年前、あなたの先祖に何をしていたのか、その身体に思い出させてみましょう」


 それから数十秒の後、レコスは開放された。ただし、無事ではなかった。


 レコスの呪縛

 『邪神の福音』 コスト:3

 リンテの命令通りに祝福を与える。


 『邪神の祝福判定』 コスト:2

 対象についている祝福の判定が出来るが、1日に1度リンテを対象にしなければ死ぬ。


「これであなたはワタクシとリンテの奴隷ですわ」

 満足そうにグレイスゾーンはそう言って、高らかに嗤った。

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