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リンテ視点「希望」

 私は草原の上で目を覚ましました。

 上半身を起こして周囲を見回します。日は傾きかけ、少し肌寒い風が吹いていました。

 一瞬、何故私はこんな所で寝ていたのかと不思議に思いましたが、すぐに思いだしました。


「ラル様!?」

 私は立ち上がってそう叫びました。騎士の方達は誤解しているのです。ラル様は決して悪い方ではありません。私の事はどうなっても良いですが、私を助けてくださったラル様だけは何としてでも助けていただかなくては。


「リンテ……だよな?」

 後ろを振り返ると、少し離れた所にラル様が立っていました。何故か私の顔色を伺っているようです。

「ああ、ラル様。そうです。私はリンテです」

 


「『本物の』リンテだよな?」

「え? はい、そうですが……」

 念を押すように確認されたので、私は少し不思議に思いました。


「ああ、良かった」ラル様は胸を撫で下ろしたようです。首を傾げる私を見て、「あ、いや、無事なようで良かったって意味だ。怪我とか無いか?」

 私などの心配をしてくださるラル様はやはりとても良い人です。

「大丈夫です。そういえば、あの騎士様達はどうなさったのですか?」

 私の質問に、ラル様は答えました。


「ええっと、騎士達は他に仕事があるとかで王都の方に戻ったよ。事情を説明したら、俺も許して貰えた。うん」

「まあ、そうなのですか。それはとても良かったです」

 やはり同じ人間同士ですから、話せば分かってもらえる物です。


「とにかく街に行こう。腹も減ってきたし、今晩泊まる宿も用意しなくちゃだ」

 ラル様がそう言ったので、私は少し気まずくなりました。しかし黙っているのも良くないと思って正直に話します。

「ラル様、お恥ずかしながら、私はお金を一銭も持っていませんので、どこか野宿出来るような場所を教えて頂けるとありがたいのですが……」


「駄目だ」ラル様ははっきり断言しました。「野宿なんてしたら何人襲うか分からない」

「え? 襲う?」

「あ、いや、違う。リンテが襲われるかもしれないだろ。また山賊みたいな奴らに。お金ならさっきの騎士達から貰ったし、ちゃんと宿に泊まろう」

「騎士様からお金を頂いたのですか?」

「う、うん。一文無しなのを伝えたら、路銀を貸してくれたんだ」

「そうなのですか。今度会ったらお返ししなくてはいけませんね」

 そこまで言った後、私はこれから自分が死にに行く事を思い出しました。せめて死ぬ前にお礼を伝える事が出来れば良いのですが。


 私達は街道に戻り町を目指しました。

 それからの道中は平穏無事で、町に到着してからはラル様が全て手続きをしてくださいました。


 元々私が着ていたのは白くてシンプルな服でしたが、このままだとやや目立ちますし、山道を歩いて汚れてしまいましたので、ラル様が気を使って新しい服を買ってきてくださいました。平民の方が着られる極一般的な落ち着いた色の服でしたが、久しぶりの新しい服だったので私は嬉しくなりました。


 ラル様はその「もぐりの司祭」様を呼びに行きましたが、予定があるそうで、会ってくださるのは明日の朝という事になりました。


 服を着替えてから、宿屋の1階で食事をしました。この町は冒険者さん達が良く寄る宿場町らしく、それらしい装備をした方々が沢山います。私達は食堂の隅にあいている席を見つけて、そこに向かい合って座りました。注文もラル様にお願いして、しばらくするとふくよかな女性が食事を運んでくださいました。

 メニューの名前は分かりませんが、鶏を焼いた物と、炒った豆のスープ、それから黒くて硬いパンが並べられ、空腹の影響もあるのかもしれませんが、それは私がこれまでの人生で食べた物の中で1番美味しい物でした。


「……何でそんなに楽しそうなんだ?」

 ぽつりと呟くようにラル様が私に尋ねました。私は少し恥ずかしくなりましたが、ナプキンで口を拭いてから答えます。

「この3年間はずっと1人で食事をしてきたので、誰かと一緒に食べるだけで楽しいですよ。それに、ここの食事はとても美味しいです」

「うーん、そんなもんか……」

 ラル様は料理をじっくり見た後、口に運んでから微妙な顔をしていました。


「それで、明日からはどうするつもりなんだ?」

 ラル様の質問に、私は魔を置かずに答えます。

「司祭様の判定を受けた後、港町ポラストに向かおうと思います。私を乗せる予定だった船が待っていてくれているかは分かりませんが、何にせよ沖に出るには船が必要ですし」

「……なあ、リンテは本気で死ぬつもりなのか?」

「はい。呪縛がかかったままならばそのまま死にますし、何らかの原因で解けているようであれば、新しい呪縛をもらいに1度王都へ戻るかもしれません」

 実際、感覚は戻っていますし、頭痛もありません。内臓も正常な状態に戻っていますから、呪縛が解けている可能性は高いと思います。


 ラル様は真剣な表情で、私にこう尋ねました。

「あのさ、復讐しようとか思わないのか?」

「え? 復讐……?」

 思いもよらぬ言葉に、私は食器を持つ手が止まってしまいました。

「だってそうだろ。リンテが器数を持って生まれてきたのはリンテのせいじゃない。祝福アレルギーだったのも同じだ。なのに呪縛だけ抱えて死ねなんて、親のする事じゃねえよ。山賊と同じ事を言うのは癪だけど、リンテはお人好しすぎる」

 何と答えて良いか分からず、私はラル様を見たまま黙ってしまいます。

 ラル様は視線を逸らして、眉間に皺を寄せながらスープをすすっていました。


「私が生きている事が、家族に迷惑をかけるのです」


 それは私の正直な気持ちでしたが、口に出すのには少しだけ努力が必要でした。絞り出すような声になってしまって、情けないのですが視界も潤んできました。


「私など、生まれてこなければ良かったのです。期待だけさせて、それに応えられず、大恥をかかさせてしまいました。家名にも傷をつけ、王太子様にまでご面倒をおかけしました。決して許される事ではありません」

 ラル様は黙ったままです。もし同情などの感情を抱かれているのなら、それはもったないと思った私は咄嗟に笑顔を作って続けます。

「でも呪縛があって良かったです。これで私の器数もお役に立てますし、家族もきっと喜んでくれます」


 ラル様は全く納得されていない様子でした。ため息をひとつつき、諦めたように言います。

「食べ終わったらさっさと寝よう。朝一で司祭が来る」

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