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プロローグ「呪縛」

 お父様、お母様、お兄様。

 私のような者を婚約者として選んで下さった王太子様。

 私に良くしてくださった方々全員に、私は心からの謝罪をします。


 期待を裏切る事になってしまって、申し訳ございませんでした。


 私の死を持ってこの償いをさせてください。


 全ての元凶は私の「体質」にあり、私の罪はこの身体を持って生まれてきた事です。

 せっかく神に与えられた素晴らしい物を、私は台無しにしてしまいました。




 プロローグ「呪縛」


 ここは王都ロデンテラ、大聖堂にある地下礼拝堂。

 私は棺桶の中に寝かされ、両手両足を拘束された状態で、天井を見つめています。


 何名かの司祭様が棺桶を囲んでおり、私からは見えませんが家族も見送りに来ています。


 それから『呪縛』に苦しむ方々が5名。順番を待っています。


「リンテ・グレイシア。これより『呪縛』の移動を行う」


 司祭様がそう宣言しました。


「今一度問う。『呪縛』をその身に受ける事、了承するか?」


 私は答える。


「少しでも皆様のお役に立てるのならば、この身体、どうなっても構いません」

「よろしい。『呪縛移動』の同意は得られた」


 司祭の祝福

 『呪縛移動』 コスト:4

 移動元と移動先の同意を得る事により「呪縛」を移動させる事が出来る。


 司祭様が祝福スキルを発動し、1つ目の『呪縛』が私の身体に流れ込んで来ました。


 リンテの呪縛

 『三感封印』 コスト:3

 視覚、嗅覚、味覚の3つが機能を失う。


 私の目の前が一瞬で真っ暗になりました。地下独特の湿った匂いも今は感じません。おそらく今何か食べれば、私の舌では味が分からないでしょう。

 これが『呪縛』の力……。

 私は少しばかり恐ろしさを感じましたが、それもこれも私が全て悪いのです。


 これから起こる事を甘んじて受け入れる覚悟は決して揺るぎません。


「次の『呪縛移動』を行う。良いな?」

「はい、構いません」


 リンテの呪縛

 『エンフィーブル』 コスト:3

 臓器の機能が低下し、肉体に深刻なダメージを与える。


 その呪縛がかかった途端、全身に寒気を感じました。同時に指先から力が抜けていき、呼吸も浅くなりました。ちょうど酷い風邪にかかった時のように、体力と気力が奪われているのが分かります。


 この呪縛がかかっている限り一生このままだった事を思うと、元の呪縛の持ち主の方には同情を禁じ得ません。絶望的な気分だった事でしょう。

 呪縛が私に移動した事で、持ち主の方が救われていたのなら幸いです。


「次の呪縛を移動する。良いな?」

「……は、はい」

 

 司祭様が1つごとに同意を求めるのは、それがスキルの発動条件であるからに他なりません。祝福スキル『呪縛移動』は、呪縛の持ち主と移動先の人物の両方から同意を得なければ発動しないのです。


 リンテの呪縛

 『死する運命』 コスト:4

 この呪縛を受けた状態で3ヶ月が経過すると死亡する。


 これに関しては、肉体には何の変化も起きませんでした。

 ただ呪縛を受けた事は確実であり、その効果も私は知っています。

 ですが、私にとって残りの命は3ヶ月もありません。


「次の呪縛を移動する」

「……はい」


 リンテの呪縛

 『正体不明』 コスト:5

 詳細は分からない。時々頭痛が発生するとの報告あり。


「この呪縛と次の呪縛については詳しい事が分かっていない。何か変化があったら言うように」 

 司祭様にそう言われて、私は黙って頷きます。


 しかし呪縛がかかった途端、すぐに変化は発生しました。

 頭が割れるように痛くなったのです。脳全体が締め付けられているかのようです。


「し……司祭様、頭が……頭が痛いです」

 言われた通り私は自分の状態を報告しましたが、司祭様から帰ってきた答えは「そうか」だけでした。


「最後の呪縛を移動する」

「くっ……うぅ……あぅ」

 

 頭痛と全身の悪寒が辛くて、まともに返事する事が出来ないでいると、側にいたお父様がこう言いました。


「早く司祭様の言葉に同意しろ。お前も長く苦しみたくはないだろう」

「は……はい。同意……し、します」


 リンテの呪縛

 「正体不明」 コスト:5

 詳細は分からない。時々両腕に痛みが発生したとの報告あり。


 これも1つ前の呪縛と同じくすぐに変化が発生しました。左右両方の腕、肩から指までに激痛が走り、私は思わず反射的に身体を退け反らせてしまいました。

 それを見たのであろうお父様は、声を荒げました。


「リンテ、暴れるな! ここでお前に死なれたら元も子も無いのだぞ!」

「ぐ……あぁ……ご、ごめんなさい。でも、い、痛くて」

「そんな事は知らん。いいからじっとしていろ」

「わ……分かりました」


 私が全て悪いのです。期待させるだけさせて、それに応えられなかった私が。

 これは私が受けるべき罰であり、ようやく私が人の役に立てるのですから、喜ばしき事です。


「リンテ」

 お兄様の声がしました。『三感封印』の呪縛によって姿を見る事は出来ませんが、その懐かしい声が聞けただけでも痛みが和らぎました。

「ああ、お兄様」


「お前……まだそんな物をつけてたのか」


 そう言うと、お兄様は私が首から提げたペンダントをちぎって取りました。

 それは、私がお兄様から12歳の誕生日に貰った月とイルカのペンダントでした。

 地下で暮らし始めてからの3年間、私は毎日そのペンダントに祈ってから眠りについてきました。出来る事なら最後も一緒にいたかったのですが、残念です。でもわがままを言う気はありません。私はそれだけの罪を犯しました。


 やがて棺桶の蓋が閉められ、釘が打たれていきます。

 この後、私を入れた棺桶は船で沖まで運ばれて、錘をつけて海の底に沈められます。


 そして私は、5つの呪縛を抱いたまま、暗い海の底で1人死んで行くのです。

 何故こうなったのか、その経緯を語るには、私がこの世に生を受けた瞬間にまで遡らなければなりません。

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