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第五章・その3

       2




 俺が河川敷についたとき、まだ忘却の時刻は発生していなかった。マイヤードも言っていたが、俺のほうが先に到着してしまったらしい。


「とりあえず、ウォーミングアップくらいはしておくか」


 俺は目黒さんから借りてきた勇者剣をかまえてみた。どういうカスタム化がしてあるかは、一応、説明を聞いているが、まだ使っていないから勝手がわからない。


「確か、勇者の力に呼応するって言ってよな」


 俺は軽く素振りをしてみた。ヴン! という、ノイズみたいな音がする。俺が剣を振った後に、赤い残像みたいな幕が張った。一瞬置き、それが霞みたいに消えていく。


「なるほど、少しの間、力が空間に残るんだな」


 おもしろい。まるでハリウッド映画のSFXである。もっと違う形で出会いたかったなーと思いながら、俺は勇者剣で素振りを繰り返した。――なるほど。何回かやってるうちに、感覚がわかってきた。剣プラス銃みたいなもんである。振ったあとの余韻の幕にも破邪の力が宿っているのだ。


「突きはいけるか?」


 俺は勇者剣を右手だけで構えてみた。フェンシングの要領で身体を横向きにしてみる。


 あいにくと、突きがどうなるかの確認はできなかった。


「おもしろい武器を持ってきたものだな」


 突然の横からの声と同時に、空間に、凄まじい重圧がのしかかってきた。あっという間に見えている世界が白い霧で覆われていく。


 声のした方向を見ると、甲冑を着込んだマイヤードが立っていた。前のときとは感じられる魔力が倍以上も違う。


「なるほど。復活してからのリハビリは終わったようですね」


 これがマイヤードの本来の力か。勇者剣を肩に担いで言う俺に、マイヤードが、音もなく歩いてきた。甲冑を着ているのに、である。魔力放出で、自然現象にまでおかしくなっているらしい。


「現役復帰、とは言っておこう。まだ一〇〇パーセントではないがな」


「そりゃよかった」


 いまの俺にも、なんとかなる可能性が少しはあるらしい。まあ、あってもなくてもやるしかないんだが。俺はマイヤードから目をそらして周囲を見まわした。


「中野聖菜はどうしました?」


 俺が訊いたら、マイヤードが右手をあげた。同時に、勇者同盟の集会所が現れる。白い霧をスクリーンに、プロジェクタで映像を投影しているみたいな感じだった。その映像に聖菜が現れる。集会所に待機している、ほかの勇者たちと青い顔で何やら話していた。さすがに音声は聞こえない。


「いま、この状態だ」


 マイヤードが右手を降ろすと同時に映像も消えた。


「無条件に返してくれたわけですか。感謝します」


「気にする必要はない。人質などとらなくても勝てると踏んだからだ」


「たとえそうでも、本気でやりあえるんだから、俺にとってはありがたいですよ」


「せいぜい死力を振り絞るがいい」


 俺から五メートルほど離れた場所で、マイヤードが立ち止まった。


「それはともかく、もうはじまってると判断していいわけか?」


「せめて、ヨーイドンくらいは言いましょうよ」


「ほう、騎士の作法だな。見所のある奴だ」


「騎士じゃなくて勇者なんですけどね」


 俺は勇者剣をかまえた。


「ヨーイドン!」


 言うと同時に、俺は勇者剣へ魔力をこめた。魔王軍だけではない。俺たち勇者も魔力の使い方は心得ている。俺の魔力に呼応し、握られた勇者剣が青いオーラを生みだした。それも、すさまじい勢いで。カスタム化された勇者剣ならではの現象である。魔力の増幅率が桁違いなのだ。これなら行けるぞ。ただ素振りをしていたときとはわけが違う。――内心、絶対的な勝利を確信しかけた俺の前で、マイヤードが持っている勇者剣を振った。


「乱世龍!」


 俺は慌ててかまえていた勇者剣を防御の形に移した。俺の前に、青いオーラの防御シールドができた瞬間、それこそ、のたうつドラゴンの断末魔のような衝撃が襲いかかってきた。俺のつくりあげた防御シールドを一瞬にして破壊し、突き刺さるような痛みが全身を駆ける。


「――痛ううう」


 我慢できずに声をあげながら前方をむくと、マイヤードは、軽く首をかしげながら、自分の持っている勇者剣を見ていた。

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