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第五章・その2

「さてと、どうするかな」


 勇者同盟の集会所を後にしながら、俺は少し考えた。――ユーファはどうだったか覚えてないが、聖菜はスマホを持っていた。そっちで接触してみるか。


 俺は自分のスマホから、聖菜にメールを送ってみた。――しばらく待ったが、何も返事がこない。気がつかないはずはないんだが。


「ということは、スマホに触れないってことだな」


 勇者同盟の集会所でも、みんな呪縛されて、俺がくるまで身動きできなかった。それと同じ状態なんだろう。だったら、マイヤード本人にスマホをとらせればいい。俺はメールではなく、直接、聖菜のスマホに電話をかけてみた。


 今度はすぐにでた。


『はい、もしもし』


 男の声である。ビンゴだな。


「すみません、俺、青山恭一ってものなんですけど」


『なるほど。本当に貴様だったか。我はマイヤードなり』


 やっぱりだ。それにしても素直な御仁だな。


「想像どおりの返事でしたね。ところで、本当に貴様だったとは、って、どういうことですか?」


『いま、ここに中野聖菜という娘がいる。いま、我が持っている機械の使い方を聞いたら、これは青山恭一からの電話だと言っていた。グラハム・ベルもいい発明をしたものだな』


「あ、そういうことか。じゃ、すみませんけど、その、中野聖菜の声を聞かせてもらえませんか? 無事だって確認したいんで」


『断ると言ったら?』


「あんた、俺と、もう一回やりあいたいから人質をとったんでしょ?」


『――ふむ』


 電話のむこうで、マイヤードが笑ったような気がした。


『わかっているではないか。では、待っていろ』


 言われたとおりに待っていると、いきなりの金切り声がした。


『恭一! あなた、こんな状況でどこにいるの!? 早く勇者同盟の集会所で、私たちの捜索願を』


「あーごめん。いまさっき、それを断ってきたばっかりなんだ」


『なんですって――』


 ここで、聖菜の声は聞こえなくなった。


『これでいいか?』


 代わりに聞こえてきたのはマイヤードの声である。


「まあ、基本はそれでOKってことで。あと、もうひとり、ユーファって娘がいたと思うんですけど」


『――ああ、あの娘か』


 少しして、マイヤードが思いだしたみたいに言ってきた。


『あの娘なら、魔界へ帰した』


「は?」


『あの娘は、魔王軍の所属ではなかったようだが、魔族であることはすぐにわかったからな。そんな娘、手元に置いていても、貴様への人質としては意味をなさないだろう。だから魔界へ追い帰した』


「あ、なるほどね」


 これはありがたいと俺は思った。つまり、考えなくちゃならない、面倒な要素がひとつ減ったってことである。


「まあ、そんなこと言っておきながら、実は殺しちゃいました、なんてオチじゃないでしょうね? 魔王の娘を名のる嘘つき娘には天誅だー、なんてノリで」


『あんな娘、刀の錆にする価値もないだろう』


「証拠はありますか?」


『追い帰したんだ。証拠などあるはずもない』


「ふむ、それもそうですね。じゃ、信用しましょう。で、俺はこれから、どこへ行けばいいんです?」


『そっちで好きに決めてくれて構わんぞ』


「そうですか。――じゃ、前に遭った、あの河川敷のサッカー場はどうです?」


『貴様が乱世龍を使った、あの小川のほとりのことか?』


「そうそう」


『あれは我も驚いたぞ。貴様のような小僧が乱世龍を使いこなせるとはな』


 これはマイヤードの、本気の賞賛の言葉だった。


『かつての勇者の子孫だと言っていたが、どうやら信用してもよさそうだ。誰から教わった?』


「もう忘れちゃいましたよ」


『人質がどうなってもいいというのか』


「人質に何かあったら、もう俺とは戦えませんよ。こっちも数にものを言わせて一方的にあんたを潰しにかかります。勇者同盟の集会所で呪縛されたみたいな小者じゃなくて、俺以上に腕の立つ連中がごろごろいるもんでね」


 と、大嘘のはったりをかましたら、マイヤードも少しおとなしくなった。


『驚いた奴だな。人質に対する愛着はなし、か』


「勇者の子孫として活動すると決めた時点で、聖菜も、いつかこうなる覚悟はしていたはずです。そこにいるんでしょ? 確認すればわかりますよ」


『やめておこう。死ぬ覚悟のできている人間は脅しが効かんから困る』


「かつての六大勇者もそうだったはずです」


『だから我も不覚をとった』


「そしていまも、同じ過ちを繰り返してるんですよ」


『なるほど、これはご忠告、痛み入る』


 嫌味でもなんでもない、マイヤードの返事だった。


『では、人質を使った脅迫はなしにしよう。一対一での勝負を挑ませてもらう』


「それは、受けても構いませんけどね。ところで、どうしてそんなに俺とやりあいたいんです?」


『貴様は手ごわい。生かしておいては、今後、魔王軍を再興する際に支障をきたす』


「理想的な返事ですね。さすがは魔将軍様です」


『褒めても手加減はせんぞ』


「本気で尊敬したんですよ。じゃ、いまから行きますから。聖菜を連れて待っていてください」


『我も、これから、あの小川へ行く。貴様が先についたら、そのときは待っているがいい』


 電話が切れた。何か辞世の句でも残しておこうかと思ったが、あいにくと何もでてこない。親に言い残すこと。――これもである。だめだな、こういうとき、普段から危機意識があるかないかの差が強くでてくる。


「まあ、勇者同盟の下っ端ながら、きちんとその使命をまっとうした、くらいの美談にはなるだろう」


 俺はスマホをポケットにしまい、河川敷まで早足で行くことにした。

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