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[6-23] シン・ロン

 一撃を入れた直後、ルネとミアランゼは一直線に離脱。

 一拍遅れて竜王のブレスが一閃。

 地平が歪んで見えるほどの熱量が空を薙いだが、追撃は二人に届かなかった。


「それ、あと何回やれる?」

「二回……いえ、三回ほどは」

「二回ね」


 ミアランゼの過剰な申告を、ルネは自分で補正した。


 そも、一度成功した戦術が二度成功する保証は無し。

 今の攻撃も、ルネとミアランゼの動きが読めていたら、竜王はどうにかして防いでいただろう。

 意表を突き続けるべきだとルネは判断した。


 眼下では、溶岩の流れ出す川を踏み越え、兵が竜王に向かっていた。

 本来なら陣列への攻撃を防ぐために使われる野戦障壁が、地面と水平に張られていた。つまり、橋だ。溶岩を越えるための橋だ。掛け方を工夫すれば大勢の兵士を渡すことができる。


 小さな人族が強大な竜王を相手にして何をできるだろうか。

 ……できる。戦える。


「皆。機会を与えましょう」


 ルネは宙を舞いながら、指揮者がタクトを振るうように、赤刃を掲げた。

 すると闇が広がった。

 黒いカーテンを引くかのように、禍々しい黒紫色の夜が、ルネから噴き出して空を染めていく。

 そこに、赤い星々が瞬いた。

 赤く輝く砂となって赤刃が散り、銀河のように夜を彩った。


『……何をした……?』


 さしもの竜王と言えど、何が起きたか即座には察せない様子だった。

 奇跡には理屈が通じない。

 類推で推し量るには限界があるのだ。


 確かな事実は小さきものたちが迫っているということだけだ。 


『爆ぜよ!』


 手負いの竜王が天に咆える。

 かりそめの夜空に流星が瞬いた。

 それは炎であった。


 夜を貫いて天より降り墜ちる、隕石のような炎。

 数え切れないほどの光が、落ちてきた。


 ずん、と頭蓋を軋ませるような轟音。

 降り墜ちる炎が地に爆ぜたのだ。

 大地はクレーター状に抉られ、そこに溶岩が流れ込む。

 直撃を受けた兵は吹き飛んで、形すら残らず……


 否。それは、まだ動いていた。


「「「オオオオオオ!!」」」


 ミスリルの防具は赤熱し、もはや半ば融解している。

 その中で肉体は炎の塊となって、炭化していく。

 だがそれは、動いていた。

 量産された対竜特攻武器アンチドラゴンウエポンの剣や槍を手に、彼らは道がある限り猛進する。


 仮称『帳の抱擁』。

 仕掛けとしては結構単純だ。兵たちにルネが邪気を打ち込み、授け、固定する。そういう空間を作り出しただけだ。

 無論、生者にとって邪気は猛毒だ。

 その身に邪気を宿した者は、死亡時に確実にアンデッド化できる代わりに、どう足掻いても死ぬ状態となる。

 だがそもそも、竜王に突撃した以上は100%の死が確定していると言えよう。

 確実に死ぬ状況に於いて、これは祝福であった。


『肉の有無で、何が変わるか!』


 片翼のみになった竜王は、だが、その翼を大きく広げる。

 そして、打ち仰いだ。


 熱風どころか炎の暴風。

 それが突撃を蹴散らす。


 それでも踏みとどまり、突破した者たちが、遂に武器を突き立てた。

 後脚に、腹甲に。


『効かぬわぁっ!』


 巨体でありながら、竜王の動きは、熟練の剣士の如く俊敏で苛烈だった。

 太い尾が、炎そのものの大剣が、螺旋を描いて周囲を薙ぐ。

 暴力と暴炎の直撃を受けたアンデッドは、流石に形も残らず消し飛んだ。


「≪血染槍衾カズイクルベイ×(クロス)……」

「……≪血染槍衾カズイクルベイ≫」


 その時には既に、宙に次弾があった。

 血と、血が、練り上げられて、魔法の係鎖チェインを組み上げる。


「≪血河一刃エクスカズイクルベイ≫!!」


 血が、呪いが、そして……今まさにここで死したる者たちの怨嗟が。

 吸い上げられて、練り上げられて、形になった。

 魔法弾と言うにはあまりにも大きすぎる魔法弾が形成される。

 それは耽美にして悲壮なる死の叙事詩が、刃文の如く刻まれた大太刀であった。


 竜王すら串刺しにできる大きさの、大太刀を模った魔法弾が、飛翔した。

 見えざる悪魔が振り下ろしたかの如く、それは叩き付けられる!


ぬるいわ!』


 渾身の攻撃には渾身の防御。

 竜王は炎の大剣で鮮血の大斬撃を受け止め、鍔迫り合いにブレスを重ねた。

 炎と呪詛が削り合って弾け、相殺し合う。


 押し切れるか、とルネは一瞬思ったが、そうはならなかった。

 ワニがデスロールをするように、竜王は身をよじり、宙に向かって尾を振るう。

 竜王の尾が爛れて抉れ、引き換えに鮮血の大太刀が割れて散った。


 しかして、竜王が防御に注力した僅かな間に、次の手が迫っていた。


『撃て撃てぇーっ! 隙を作るんじゃないよ!』


 大小、遠近、実体と魔力。

 全てを織り交ぜた砲撃が波状に放たれた。


 どう見ても竜王の魔法の射程圏内である場所に、砲が据え付けられて火を噴いていた。

 そもそも、竜王の分厚い甲殻を貫こうと思ったら、砲をかなり近づけねばならぬ。

 反撃があれば秒殺される距離まで肉薄しての決死の砲撃だった。


 さしもの竜王も全ては防ぎきれぬ。

 腹甲を、脇腹を裂いて槍状の弾が突き刺さり、魔力投射が鱗を焦がす。


『この程度かあぁっ!』


 突き刺さったはずの弾が、溶けた。溶け落ちた。

 傷口は炎が迸って焼き塞ぐ。


 そして竜王が地を踏みならしたと思うや、溶岩の大波が生まれた。

 膨大な熱と圧力を秘めた波動が、竜王を中心に広がって、砲も砲手も焼いていく。

 後には溶けたものと焼けたものしか残らず……


 溶岩津波が断ち割られた。


 五重の障壁で防御を固めた何かが、焼け焦げた大地を走っていた。

 実のところ、それは砲撃の飛ぶ下を既に走っていたのだ。

 そして今、溶岩津波に逆らって、竜王に突き刺さろうとしている。


 線路なしで走るトロッコのような物体。

 自走馬車だ。大砲などの兵器を運ぶのに使っていた車両だ。

 それが、御者も居ないのに走っていた。

 荷台に、魔力爆弾を山ほど積んで。


『ヒャハハハ! こいつとファックしやがれ鱗ジジイ!』


 空中浮遊で溶岩津波を回避したサイコイルカたちが、狂った笑い声を上げる。


 この自走馬車、爆弾を積めるだけ積んでサイコ遠隔操縦で走らせたものだ。

 障壁を張って尚、操縦者が焼け死ぬ温度。だが操縦者が居ないなら関係ない。そして魔力を炸裂させる爆弾は、高温だからといって起爆するとは限らないのだ。


『おのれ!』


 竜王はブレスで迎撃!


 自走馬車は溶解しつつ圧壊。

 だがその車体は、もはや十分に近づいていた。


 ブレスの圧力で破壊された魔力爆弾は、圧縮されていた魔力を解き放ちつつ、その威力を具現化。

 純粋な圧力の大爆発が発生した。

 巨大にして強大な圧力の球が、弾き飛ばされる塵によって描かれた。

 聞こえるのは轟音と言うよりも衝撃。生者であれば直撃を免れても、居合わせただけで耳の器官を破壊されるところだ。


 竜王の肉体が、ほぼ半分になっていた。

 半身が吹き飛んで、突き出した肋骨と千切り取られた臓物の断面が露出している。

 もはやドラゴンゾンビの如き様相であるが、それでもまだ、竜王の分身は生きていた。

 生きているだけだったが。


『このような玩具で……っ!』

『玩具ぅ? 玩具ねぇ。じゃ、それにやられてるあんたは玩具以下のゴミってこと?』


 怒りに燃える負け竜の遠吠えに、エヴェリスは拡声の魔法で皮肉を返した。


 そして、幕切れはシンプルで、静かで、無駄のないものだった。

 赤刃を超々長剣の形としたルネが、上空からの急降下と共に振り下ろす。


「……次は、本物を」


 竜王の首が落ちた。

 その途端、複製された肉体は何かに分解されるように崩れていって、そして消えて、無くなった。

前回の感想返信で『ルネは魅了の魔眼を使ったことが無い』という話をしてましたが普通に使ってました。申し訳ありません。(削除済み)


※言い訳なんですが前回語ったのは、以前こっそり未公開で着手してた第二部改稿版の設定です……現行版とゴッチャになってました。

 この際言っちゃいますが本作品はどこかのタイミングで、今書いてる現行版を『先行版』として、それとは別で第一部から展開や設定を整理してブラッシュアップした『改稿版』を同時に走らせようと思ってます。(第一部は書籍化もされてますが、そこから更に磨き上げて書き直す予定です)(今回のコレみたいな多少の設定変更も入れていく予定です)


 ぶっちゃけ収入が安定したタイミングでやろうと思ってるので、明白に「いつからやる」とは言えないのですが……やります。

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― 新着の感想 ―
使ってたことありましたが記憶違いですみません。。ミアランゼが使ってたと思ってました 水魔法で城郭削るほど強力だったりしたので火には水って安易に思ってましたが無駄なのかなあとか後サイコイルカ大金星すぎ…
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