表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
362/379

[6-8] 召喚コスト

大変長らくお待たせ致しました……。

結局修羅場が3月末まで続いて更新できない状態でしたが更新再開します。

 鎧を軋ませて着地したキルベオは、即座に走り出した。もし、あのゴーレムが自分を狙ったとするなら、狙いを狂わせるために走り続けるべきだ。


 ――問題は、奴の燃料の残量だ。あの馬鹿げた大砲を何度撃てる? 防げない以上は撃ちきらせるしかないが、それまでに我が軍が壊滅する危険も十分にある。


 巨大ゴーレムは、まず拘束を千切り、次に指揮所を狙った。

 もし魔力的な知覚によってキルべオを追跡しているなら、将であるキルベオを何が何でも撃ち殺そうとするかも知れない。

 キルベオはベルトを探り、親指の先ぐらいの大きさの宝珠を取り出した。短距離転移ショートテレポートの魔法を使うためのアイテムだ。

 本来は閉所や包囲の中から自分だけ緊急脱出するためのもの。射線がこちらに向いていると思ったら、発射寸前でこれを使って脱出する。……できるかは分からないがやるしかない。


「繰機兵隊副長、応答可能か!」

『はっ!』


 身につけた通話符コーラーに叫ぶと、幸いにも応答があった。


「繰機兵長は一撃目で吹き飛んだ。今から貴様が指揮を引き継げ!

 係竜索アンカーバリスタを使用後は退避せよ! 奴はおそらく発射点を狙ってくる! 位置を変えて再び狙うのだ!」

『それでは発射の間隔が延びてしまいますが……』

「その間は近場の者が動きを封じる!」


 瓦礫の山の中で、半身を地に埋めて暴れる巨大ゴーレム。

 その周囲に兵が集まり始めていたが……どうしても動きが鈍い。近寄れば、ゴーレムの振り回す腕にぶつかって一撃で挽肉にされるのだ。

 乱打される魔法攻撃はゴーレムの装甲の前に効果が薄く、酸毒と粘液を調合した爆弾なぞも投げられているが、効いているか怪しい。


 と、そこに、実体弾が飛来する如き風切り音。


「……なんだ?」


 陣地を飛び越えて飛んできた何かが、ゴーレムの前に着弾し、風塵を爆発させた。

 風のクッションを作って着地したのは、10人ばかりの騎士たち。

 威風堂々たるあかがね色をした鎧の騎士は、左肩に太陽とイチゲサクラソウの紋章を載せていた。


 ――あれはノアキュリオ王師の徽章! 『投人器』か!? 無茶苦茶をする!


 技術的には下等で、大砲が使えない環境での代替戦術でしかないが、巨大な岩を大型機械で飛ばす戦術がある。いわゆる投石器カタパルトだ。

 それを使って、石ではなく人を飛ばす、『投人器』と呼ばれる馬鹿げた肉弾術も、理論上は存在する。当然ながら着地をどうにかする備えが必要だが、ほとんどの迎撃をすり抜けて人を移動させることができる。こうして敵陣のただ中にさえ。


 ――ゴーレムを守るために少数で先行した決死隊か? 完全に命と引き換えの時間稼ぎでしかないが……


 騎士らは、己の仕事を完全に理解している様子で、着地から全く間を置かずに駆けだした。

 ゴーレムを包囲する兵たちに、我が身を省みず切り込んでいく。

 苦し紛れの魔法を弾き飛ばし一太刀。間を置かず切り返し、瞬きの間に兵が殺されていく。


「抜刀隊、前へ!」

「マグロ!」


 キルベオの命令に先んじて、三度笠サンドガサが飛んだ。

 奇抜な円盤状の帽子は、投擲の遠心力で仕込み刃を展開し、ノアキュリオ騎士に叩き付けられる。

 ミスリル製であろう分厚い籠手に、深い一本筋の傷が付いていた。


 その投擲物を追って走る巨漢の剣士あり。


「カツオ! イワシ! タイ! タマゴ!」

「ごあっ!」


 ウダノスケは王師の騎士を三人同時に相手にして斬り結び、うち一名の兜に剣を突き込んでそれをてこに兜ごと両断。

 だがその瞬間、残りの騎士たちがさっと飛び別れつつ伏せた。


 騎士たちの背後からゴーレムの巨腕が振るわれ、ウダノスケに迫る。


「ポテト・フライ!」


 サムライが宙を舞った。

 ウダノスケは走り高跳びめいた美しいフォームで、鋼の尖塔めいたゴーレムの巨腕を背中から飛び越えた。


 ウダノスケ配下のグール剣士たちが、地から湧いて出るかのようにわらわら飛び出し、特徴的な片刃の剣を手に、太陽王国の騎士たちに襲い掛かった。

 その動きの激しさは何度見ても異常に思えるほどだった。跳躍、疾走、剣撃、全てが弾けるバネ仕掛けめいた恐るべき勢い。生者は生体魔力回路によって超常の力を発揮するが、グールはそれだけではなく、肉体そのものの発揮する力が生者とは異なるのだ。


 しかし。

 降下した騎士たちが陣を乱した隙に、巨大ゴーレムは這い出しつつあった。

 その巨体が身を乗り出すだけで、攻撃の範囲は大きく広がる。攻撃を察知した者が逃げるより速く。


 包囲陣の一画に手のひらが叩き付けられた。

 大地が震えて、全てが赤く潰れた。


「敵騎士は抜刀隊に任せ、ゴーレムの妨害を継続せよ!

 係竜索アンカーバリスタは準備ができ次第、次弾を!」

『将軍閣下! 進言をお許しください!』


 起動したままだった通話符コーラーが咆えるように言葉を発する。


『魔力伝送用の導線をゴーレムの関節に絡めれば、動きを鈍らせられましょう』

「仕掛ける算段があるなら、やってみよ」

『はっ!』

『閣下、蒸気式破城鎚パイルバンカーで装甲が薄い脇腹部分に攻撃を試みようかと……』

「構わん、やれ!」


 キルベオが命令を下すや、軍の動きが変わる。

 極太のワイヤーを持った者が走った。ゴーレムの振り回した手の先が弾き飛ばし、半分ほどが吹き飛ぶ。

 蒸気動力の巨大な杭を備えた絡繰りが、勇猛な男たちに牽かれて突撃する。一撃、ゴーレムの脇腹を突き破ってひしゃげさせ、次の瞬間には牽き手ごと叩き潰される。


 ――一瞬で何十人もが死ぬ……! 死体と魂の回収は可能か? いや、今はそれどころではない!


 キルベオは、己は良くも悪くも覚悟が決まっている方だと思っていた。

 だが目の前で仲間たちが木っ端のように蹴散らされているのを見て、怒りも恐怖も悲しみも覚えぬ者がいるだろうか?

 そこまで堕ちてはいない。

 彼らはキルベオの命令で戦い、キルベオの命令で死ぬ。それを見て苦しまぬ者は真の将ではない。


『キルベオ』

「……元帥閣下!」


 キルベオの持つ通話符コーラーが声を伝えた。

 国軍元帥、アラスター・ダリル・ジェラルドの声だ。


 前線の指揮はキルベオに預けられている。

 そこにアラスターが介入するということは、キルベオの権限より更に上位の手段による解決を画策するということ。

 不甲斐なく思いつつも、それをキルベオは光明と思った。


依代よりしろ殿を使え。こちらの準備はできている』


 命令は短く。

 異論を差し挟む余地もなく。

 それはむしろキルベオへの気遣いだろう。

 自分の頭で是非を考えなくてもいいようにと。


「了解、致しました」


 キルベオは苦い唾を飲んで応じる。

 『死ね』と言うのも、将の仕事だった。


 * * *


 彼女は砦の地下に避難していた。そして、そのまま、そこでお役目を果たすことになった。


 手の込んだ紅白の薔薇の刺繍も鮮やかな、民族衣装のワンピースの少女。

 彼女の名はクロエ。

 シエル=テイラ亡国の下層民の出だ。食い詰めた孤児院から、兄弟姉妹たちの食い扶持のために『依代』に志願した。

 孤児院のみんなが自分を送り出すときに作ってくれた、造花の首飾りと髪飾りを彼女はいつも身につけていた。


「お支度が出来ました。

 『依代』殿、こちらへ」


 お偉い騎士たちや、ダークエルフの神官たちが恭しく頭を垂れて、クロエを案内した。その様子がなんだかおかしかった。自分が急に神様か何かになったみたいで。

 晴れ舞台であった。『依代』の名に恥じぬよう、クロエはおしとやかに歩いた。

 『依代』の身となってからは、まるで貴族のお嬢様みたいにお世話をされて豪華な暮らしをして、上流階級の礼儀作法も含めたいろいろな勉強をしてきたのだ。美味しくて栄養のバランスを考えられた食事と、毎日の適度な運動で、身体も丈夫に健康になった。こんなことをするのは、『依代』がみっともなくては国の威信にさえ関わるからだと教わった。


 クロエが行く先にあったのは、実に奇妙な……世界中探しても『亡国』以外には存在しないであろう物体だった。

 言うなれば、断頭台付きの玉座。いや玉座付きの断頭台と言うべきか。

 座面も背もたれも肘掛けも、綿雲みたいにふかふかで、しかし不思議なのは、頭を乗せるための台と刃が椅子の前面に付いているということ。

 それを見て流石にクロエも心臓が跳ねた。


「大丈夫かい?」

「大丈夫です。怖くなんかないです」


 案内の騎士に優しく訊かれ、クロエはぶんぶん首を振った。


「私は、自分がしていることの意味を知っています。

 ですから、怖くないんです」


 案内の騎士は少し考え、どこか陰りを帯びた笑顔で言った。


「私でも戦うときは恐ろしい。だから嘘はつかなくていい。

 恐怖しないことではなく、恐怖を乗り越える勇気こそが素晴らしいのだ」


 クロエは気の利いた返事をしようとして、結局何をどう言えば良いか、言葉を見つけられなかった。

 だけど、笑うことはできた。

 怖くていいんだ、それでよかったんだ、と。

 そして自分は今から、それを超えていく。


「薬で眠らせることもできるが、どうするね」

「それは……逆に怖いです。

 痛いかも知れないけど、何が起こってるか、最期まで見たいから」

「承知」


 クロエは玉座に座り、首を差し出す。

 留め具が嵌められ、頭が引っ込められないよう固定された。


「我が国の勝利のために」


 神官が祝詞のように呟いた。錫杖が突かれ、しゃーん、しゃーん、と厳かな音を立てていた。


 一瞬。

 刃がレールを滑り落ちる。

 そして、温かな血が弾けて、噴き出した。


 ……物体や人体は、高速移動にも限界があるし、長距離を魔法で転移させようとすると莫大な量の魔力を必要とする。

 だが、魂の飛翔は一夜で千里をも往くとされる。


「大儀である」


 少女が……落とされた首が低く呟く。

 その蒼い髪がざわめき、雪よりも冷たい白銀の色へと変じていった。

あらすじにも書きましたが、修羅場を抜けても相変わらず色々詰まってるので、感想の返信を当面停止します。

全部読んではいます! いつもありがとうございます!

回答が必要そうなもの(不明瞭な設定の補足など)は、後書きの方で色々書いて返信に替えさせていただきます。

評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
>三度笠が飛んだ。 >奇抜な円盤状の帽子は、投擲の遠心力で仕込み刃を展開し、ノアキュリオ騎士に叩き付けられる。 あああああ!またさりげなくしれっとこういうツボに刺さるロマンが溢れてる!!!これだから…
生きていないとだめなんでしたっけかなとかおもったけ普通に死体とかにも憑依してたよねとかドラゴンとか
こんにちは 最近になって本作を全話読ませてもらった者です 後半になるに連れてキャサリンがライバルではなくもう一人の主人公だ 、と感じるくらい魅力的なキャラクターになったと感じました 色々と他のお…
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ